こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

高野豆腐店の春

丁寧に大豆をゆで絞りかき混ぜ固め包丁で切る。一丁ごとに愛情を込めて作られた豆腐は水槽の中にそっと放たれる。そして開店までの束の間、できたての豆乳を飲んで一息つく。物語は、老舗豆腐店父娘の愛情と葛藤を描く。父は高齢で健康に不安を抱えている上、世の中の進歩についていけず商売の手を広げられない。娘は新製品のアイデアや新規事業に乗り気だが、父を説得できるほどの腕前がないことを自覚している。でもふたりの仲は良好で、この平穏がずっと続くことを願っている。そんな時に出た娘の再婚話。父は娘の見合い相手をいちいち面接してはダメ出しをする。ステレオタイプを強調したような頑固おやじと近所のオッサン連中の下町人情は、1970年代の泥臭いホームドラマを見ている気分にさせてくれる。

小さな町で豆腐屋を営む辰雄は娘の春と2人暮らし。春の将来を案じた辰雄の友人たちが春の相手をセレクト、イタリア料理店コックの男がハルにふさわしいと辰雄は思い込む。

一方で辰雄は病院で知り合ったふみえという同年代の女と気が合い、茶飲み友達になる。お互いに配偶者をなくし血縁のいない立場同士、病状や思い出話に花が咲き、デートを楽しんでいる。もはや色恋の絡む年齢ではない、それでも異性と話す時の胸のときめきは抑えきれない。老人同士、相手をいたわり合う余裕は豊かな老後を感じさせる。彼らの交際は、人生を豊かにするのは社会的金銭的な成功ではなく、良好な人間関係だと訴える。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

結婚を決意した春は、相手を正式に辰雄に紹介する。ところがそれは辰雄が気に入っていた料理人ではなく、むしろ見下していたスーパーの営業マン。会食の席でとても無礼な態度を取り、春ともこじれる。このあたりの描き方は愚直で不器用な辰雄の職人気質のデフォルメだとしても、あまりにも非常識で不作法。もう少しユーモアを利かせてほしかった。そして明らかになる父娘の真実。幸福は平凡な日常にこそあるとこの作品は教えてくれる。

監督     三原光尋
出演     藤竜也/麻生久美子/中村久美/徳井優/山田雅人/日向丈/竹内都子/菅原大吉/桂やまと/小林且弥
ナンバー     155
オススメ度     ★★*


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