こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

エリザベート 1878

40歳になってしまった。医師は平民の平均寿命だという。だが、帝国のシンボルとして美しさと威厳を求められ、窮屈なコルセットに縛り付けられたわが身を労わる余裕はない。物語は、中欧に覇を唱えた大国の皇后の孤独を描く。宮廷内のしきたりにはうんざりしている。外国にいるうちは自由な空気に触れられている気がして、何度も旅行する。ところが、行く先々で男たちと接しているとよからぬ噂を立てられる。どこに行ってもプライバシーはなく誰と一緒にいても心は休まらない。やがて息子や娘にまでよそよそしい態度を取られてしまう。思い描いていたのとはまったく違う人生を歩まなければならないヒロインはいつしか表情を無くし、あらゆる出来事に無感動になっていく。発明されたばかりの映画の、フィルムの中だけで見せる彼女のはじけた姿が哀しい。

オーストリア皇后・エリザベートは日々の公務に勤しんでいるが充実感は得られない。皇帝との愛はとう昔に冷め、まだ幼い娘もなついてくれず、孤立感ばかりが募っていく。

息詰まるようなウィーンでの生活から逃れるように、イングランドバイエルン、イタリアと外遊するエリザベート。衰退する帝国の命運を担って外交的な努力をするわけではなく、純粋な休暇のように見受けられる。そして、そこで現状を激変させるような出来事と遭遇することもなく彼女の無表情はさらにこわばっていく。一方で、エリザベート傷痍軍人や精神病棟などをたびたび慰問に訪れる。そこでも、不幸な目にあって入院している人たちを心から励ましたりはせず、むしろ己の心の鏡像を見ているかのよう。檻に手足を縛りつけられた女や淫蕩治療のために温浴させられる女を自分に重ねている。生き方を選択できない不幸が凝縮されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

この作品には、比喩的で象徴的で暗示的なシーンはいくつもあった。ただそれらは、オーストリア人もしくはオーストリア史に詳しい者なら意味が理解できたのかもしれないが、浅学な者の想像力を刺激することはなかった。

監督     マリー・クロイツァー
出演     ビッキー・クリープス/フロリアン・タイヒトマイスター/ カタリーナ・ローレンツ/ジャンヌ・ウェルナー/アルマ・ハスーン/マヌエル・ルバイ/フィネガン・オールドフィールド
ナンバー     159
オススメ度     ★★*


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