こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

午前4時にパリの夜は明ける

赤旗を持った群衆が歓喜の声をあげて街を練り歩く。待ち望んでいた人民のための政権、だがその政治思想の恩恵にあずかれない者もいる。物語は、1980年代のパリ、高層アパートに住む母子家庭とホームレス少女の交流を描く。専業主婦として生きてきた母は働いて稼ぐ必要に迫られるが、職業的訓練を受けてこなかったせいで社会に受け入れられない。娘は大学に進学したが、学業に身が入らない息子はまだ将来の夢を描けず悶々とした日々を送っている。彼らの家庭に転がり込んだ少女は他人に親切にされる心地よさに甘えるが、そこが自分の居場所ではないことを知っている。まだIT技術などなく、人々は直接顔を合わせてコミュニケーションを取っていた。人と人の距離が近かった時代の濃厚な人間関係が懐かしい。

ラジオ深夜番組のアシスタント・エリザベートはスタジオ出演した家出少女・タルラに声をかけ、自宅の空き部屋を提供する。タルラはエリザベスの息子で高校生のマチアスと仲良くなる。

マチアスは詩人になりたいと漠然と思っているが、確固たる信念にまで昇華させているわけではない。義務教育しか受けていないけれど世間知の高いタルラとつるんでいるうちに、学校では身につかない現実を学んでいく。エリザベートも試行錯誤しながらもキャリアを積んでいく。まだ東西冷戦下だった世界、対独戦勝国として欧州内でリーダーシップを取っていたフランスでは、社会基盤の豊かさが市民の暮らしを支えている。移民問題も格差も少なかった。若者はもっと自由で元気があった。過去を美化するのではなく淡々と再現する映像は、その延長である現在を反転して投影しているようだった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後、図書館でも働き始めたエリザベートに恋人ができる。再会したタルラはドラッグに溺れているようだ。マチアスは詩の投稿を続けているがボツばかり。少し時間がたち、世の中も変わった。それでも、小さな出来事を積み重ねながら時は進んでいく。そんな、市井の人々の人生を見守るカメラの視点が心地よかった。

監督     ミカエル・アース
出演     シャルロット・ゲンズブール/キト・レイヨン=リシュテル/ノエ・アビタ/メーガン・ノーサム/エマニュエル・ベアール
ナンバー     78
オススメ度     ★★★


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