こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

福田村事件

穢多の出自ゆえに見下される日本人。鮮人と呼ばれ差別されている朝鮮出身者。そして警察から目の敵にされている社会主義者。大地震による混乱は流言飛語を呼び、彼らに悲劇が降りかかる。物語は、関東大震災直後、暴走する民衆によって無辜の市民が虐殺された事件を追う。讃岐から来た行商には部落解放を目指すインテリもいる。東京には左翼劇作家や権利を主張する労働者もいる。若き新聞記者は真実を報道する使命に燃えている。だが、少し離れた農村では、都市で流行した大正デモクラシーなどどこ吹く風とばかりに古い価値観がはびこり、在郷軍人会が大きな発言権を持っている。彼らも家族や故郷を愛する良き父親なのだろう。だが変化を嫌い異質なものを拒む気質は、非常時に暴走する。お飾り村長は「良心の無力」のメタファーなのか。

戦争未亡人と船頭・倉蔵の仲が最大のスキャンダルになっている千葉の農村に、元教師の澤田が妻の静子を連れて朝鮮から帰郷する。澤田は農業を始めるが、静子は倉蔵に近づく。

沼部をリーダーとする薬売りたちは東京から千葉に入る。派手な服装で神社の縁日のようなところで三味線と巧みな口上で効きもしない薬を売っている。道中彼らが朝鮮人の飴売り娘と出会うと、同行者のひとりが朝鮮人への偏見を口にしたことを詫びるように沼部は必要以上に飴を買う。被差別者がさらに差別をする構造。らい病患者にはプラセボ効果しかないような薬を売りつけている。自分たちより弱い者からカネを巻き上げなければ生きていけないという沼部の言葉は、イデオロギーでは社会の構造は変えられないと訴える。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

大地が揺れ、都市部は火災に見舞われるとともに、朝鮮人が暴徒化していると刑事が触れ回る。千葉の村でも自警団が組織されるが、沼部の一行が朝鮮人と疑われる。証書を見せても偽造と言われ、歴代天皇の名を列挙しても信じてもらえない。在郷軍人会のねじれた愛国心と村人たちの蒙昧、竹槍で突かれ力尽きる被害者の姿は集団心理の残酷さを象徴していた。

監督     森達也
出演     井浦新/田中麗奈/永山瑛太/東出昌大/コムアイ/ ピエール瀧/水道橋博士/豊原功補/柄本明
ナンバー     162
オススメ度     ★★★*


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