こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

理想郷

大きな夢を抱いて田舎の村にやってきた外国人は勤勉で先進的。発展から取り残された村人は電源開発補助金で昼間から飲んだくれている。物語は、スペインの農村で有機農法を始めたフランス人夫婦の苦悩と葛藤を描く。いまだに地元になじめず、風力発電誘致に反対したために孤立は深まり、隣人の馬生産農家との対立は次第に取り返しのつかない状態になっていく。夫婦に対する嫌がらせはエスカレートし一触即発の空気が漂い始めている。警察は何もしてくれない。村人たちも見て見ぬふりをする。ほとんどの若者は村を出て中高年しか残っていない山間の寒村、ここで生まれ育ち結婚もできないまま一生を終える運命を自覚している厩兄弟の、広い世界を知っているインテリフランス人に対する嫉妬がリアルに再現されていた。

フランス人のアントワーヌとオルガ夫婦は小さな農園を経営しているが、ことあるごとに隣人兄弟から絡まれている。ある日、証拠を残すための隠し撮りがばれ、収穫前のトマトを全滅させられる。

その後も兄弟の陰湿な仕打ちは続きアントワーヌも対抗措置を取る。他に行き場所のない兄弟は失うものもない。アントワーヌは守るべき妻と農園がある。田舎の人間が怠惰なのか。合理的な考え方を学んだアントワーヌからそう見えるだけなのか。そもそも高度な教育を受ける機会に恵まれたアントワーヌと寂れた過疎地にしがみつくしかない兄弟に理解し合える余地はない。結局、工夫や努力ができるのも本人の資質、それは持って生まれた幸運でしかない。マイケル・サンデルの「実力も運のうち」で語られていた不都合な真実を思い出させる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

突然姿を消したアントワーヌの捜索をオルガは独力で続けている。厩兄弟は彼女と顔を合わせても知らぬ顔を通している。アントワーヌが兄弟に殺されたのは明らかだが、オルガは辛抱強く証拠を探す。アントワーヌの陰で脅えていたオルガがいつしか強かさを身に着け、兄弟の母親を説得するシーンは圧倒的な迫力。覚悟を決めた女の強さが際立っていた。

監督     ロドリゴ・ソロゴイェン
出演     ドゥニ・メノーシェ/マリーナ・フォイス/ルイス・サエラ/ディエゴ・アニード/マリー・コロン
ナンバー     200
オススメ度     ★★★★


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