こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ひたすらパワハラを繰り返す暴君。耐えながら出世のチャンスをうかがう家臣。天下取りに成功した軍団も、その実情は欺瞞と裏切り疑心暗鬼に満ちた世界。物語は本能寺の変を巡る奇々怪々な人間関係を描く。もはや常軌を逸している織田信長の言動には進取の気性をまとった天下人の面影は一片もない。忠誠を装う羽柴秀吉は後継者争いに勝つためにさまざまな布石を打つ。不満を募らせる明智光秀は信長に謀反を起こした武将を匿い秘策を練る。千利休は間者を放ち政権を陰で操ろうとする。迂闊に誰かを信用すると寝首をかかれる。情報網が張り巡らされ秘密が筒抜けになっている。そんな世の中で生き残るために繰り広げられる人権・人命軽視と権謀術数の数々は、21世紀社会におけるメリトクラシーの本質をあぶりだす。役に立たない者の首は簡単に飛ぶのだ。

反乱を起こした荒木村重の捜索を信長に命じられた秀吉は信長の真意を見抜き、生け捕りにした村重を光秀に預ける。秀吉に唆された光秀は、村重と共に信長暗殺計画を練る。

百姓上がりの秀吉は結果さえ残せば過程は問題にされないと、合理的な思考法で周囲の人間の心理を巧みに操っていく。もちろん我こそは天下人との思いは強い。だがそれを巧みにカムフラージュしながら武家の忠義などという旧時代の遺物を徹底的に排して実利を取る。まんまと秀吉の術中にはまった光秀は信長に対する長年の鬱憤を爆発させる。その原因のひとつが村重を巡る男色三角関係。嫉妬こそが他人から恨まれる最大の原因であると彼らの関係は訴える。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

高松城攻め最中に明智決起の知らせを聞いた秀吉は急ぎ停戦、城主の命と引き換えで片をつける。その際も、切腹の儀式を最後まで見届けずさっさと撤収してしまう。結果がわかり切っていることに最後まで付き合う必要はないという発想は、あくまで効率的。数多の歴史書や創作物で描かれてきた英雄と英雄になり損ねた人々の、“本当はこんな感じの人だった” 的な解釈は斬新かつエモーショナルで、人間味にあふれていた。

監督     北野武
出演     ビートたけし/西島秀俊/加瀬亮/中村獅童/木村祐一/遠藤憲一/勝村政信/寺島進/桐谷健太/浅野忠信/大森南朋/小林薫/岸部一徳
ナンバー     210
オススメ度     ★★★★


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