こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

きっと、それは愛じゃない

仕事はまずまず、恋愛もほどほど。気ままな独身生活を謳歌してきた彼女は、幼馴染の結婚を機に人生で一番大切なものは何かを考え始める。物語は、見合い結婚する友人のドキュメンタリー映画を撮るヒロインが、彼らの価値観を理解していくうちに自分の本心に気づく過程を描く。リベラルな教育を受けてきたロンドンの白人女と移民3世のモスレムの男。親友として付き合ってきたが異性としてはお互いに意識したことはない。男はモスレムの慣習に従い両親が選んだ相手と婚約、花嫁とは結婚式当日に初めて会う。彼は、愛は結婚してから育てればいいという。結婚は恋愛の延長上にあると考えるヒロインは強烈な違和感を覚えつつもカメラを回し続ける。異文化に敬意を示してはいるが西欧的民主主義に回帰する彼女の言動は、多様性を受け入れる難しさを考えさせてくれる。

かつて隣人だったカズの婚活に密着するゾーイは両親主導で進む彼らの縁談を逐一カメラに収めるが、モスレムにとって結婚は家族同士の結びつきであることを理解できない。

個人は家族という共同体の一員という考え方は安定をもたらす一方で拘束もする。家名を汚さないために良き息子を演じてきたカズをゾーイは非難するが、彼女は逆にカズから奔放な生活態度を指摘され言葉に詰まる。どちらが正しいのかは誰にもわからない。ただ、己の選択に後悔しないように生きていくだけ。ふたりの間に微妙な亀裂が入るが、それはむしろスパイスとなって、心に正直になることこそが最善という答えを導き出していく。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

カズ一家は教育レベルも高く理性的。だが、ロンドンの白人たちにとってやはりモスレムはどこかで異物として認識されている。それは彼らの閉鎖性からきているのだろうが、白人たちの根っこにある “自国が異教徒に乗っ取られるのではないか” という恐怖も想像できる。宗教的文化的人種的バックグラウンドなど関係なしに自由と平等と豊かな暮らしが享受できる社会という左翼リベラルの理想が実現するほど、現実は甘くないのだ。

監督     シェカール・カプール
出演     リリー・ジェームズ/シャザト・ラティフ/エマ・トンプソン/シャバナ・アズミ/サジャル・アリー/オリバー・クリス
ナンバー     234
オススメ度     ★★★


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