こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

雪山の絆

食べなければ命が持たない。食べるのは倫理にも信仰にも反する。生き残ることを最優先に選んだ彼らは禁断の肉を口にする。物語は、高山地帯で不時着に失敗した旅客機内で助かった人々のサバイバルを描く。乱気流でバランスを失った機体は尾翼部分を失う。地面との激突でさらに機体後部は粉々になり、機体前部で胴体着陸する。衝撃でシートは吹き飛び、四肢を挟まれた乗客は苦痛にうめく。かろうじて無傷・軽傷で済んだ人々も遮るものがない氷点下の雪山で凍えながら一夜を過ごす。だが、早々と捜索は打ち切られる。あっさり死んだ方がよほど安らかだったと思わせるその後の地獄は、人間としての尊厳を破ることへの禁忌も選択肢のない状態では正当化されると訴える。苦悩や葛藤があっても、結局は環境に慣れてしまうのだ。

ウルグアイラグビーチームと関係者を乗せチリに向かったプロペラ機がアンデス山中に墜落する。乗客の半分以上は助かるが、救援はなく早々と食料が尽きる。

最初のうちはすぐに救助されると思っていた彼らも、春まで自力で耐えなければならないと知ると、その状況を受け入れるしかない。雪を融かせば水は何とかなるが、飢餓状態で徐々に体力が奪われると仲間の遺体を食べるしかない。燃料はなく、解体し一口大にスライスされた肉をかみしめる。その瞬間、とんだもない過ちを犯していると思いながらも、疲弊した体にエナジーがみなぎるのも感じている。そしてその食事は彼らの日常となっていく。遺体の数が減り、骨にこびりついた肉までこそげ取って食べる彼らの姿は、生命力こそ希望の源であると教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

初夏になり山肌が見え始めると、救援を求める捜索隊を出発させる。装備も乏しいまま、ただ座して死を待つよりはとまだ雪が残る山道に踏み出すのだ。山頂から見える絶景は、一方で行く手を阻む大きな壁でもある。それでも、生きることを選んだ彼らは決してあきらめない。人間の精神と肉体はこれほどまでに強靭で崇高なのかと考えさせられる作品だった。

監督     J・A・バヨナ
出演     エンゾ・ボグリンシク/アグスティン・パルデッラ/マティアス・レカルト/エステバン・ビリャルディ/ディエゴ・ベゲッツィ/フェルナンド・コンティヒアニ・ガルシア
ナンバー     235
オススメ度     ★★★


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