5秒に1本ネタを考える。自分の理論を他人に押し付ける。コミュニケーション能力はゼロというよりマイナス、気に入らない他人の言動にはいきなりキレる。物語は、お笑い構成作家を目指す若者の蹉跌だらけの青春を描く。大喜利番組への投稿でレジェンドになった。念願のお笑い事務所に潜り込んだのに、先輩になじめない。「おもろいだけが正しい」という信念のもとネタを絞り出し続けるが、誰もが彼から遠ざかっていく。確かにお笑いのために極限まで自分を追い込んでいる。それを正当化する一方で、「人間関係不得意」と面倒なことからは逃げてばかり。そして、応援してくれる人にまで後足で砂をかける。共感ポイントはゼロ、本当の天才にしか許されない生き方を選んだ主人公の狂気に似た情熱はどこまでも空回り。こんなやつはたまにいるな。
お笑い事務所でピン芸人に声をかけられたツチヤは彼のためにネタを書くが、古い資料から盗作したのがバレるとまた自宅に引きこもってはがき職人を目指す。
自室ではアイデアが浮かぶまで壁に穴が開くほど頭をぶつけ、フードコートではポテトフライだけで何時間もノートにメモを書き続ける。恐るべき集中力と持続力はまさしくお笑いに人生のすべてを捧げていると言っても過言ではない。ただ、ツチヤの場合、他人を笑わせるというよりも自己完結で終わっているのが哀しい。TVやラジオのMCにはウケるが、その先にいる大勢のファンには届いていないのだ。自分の作品にカネを払ってくれる人がいて初めてプロ、そのためにはさまざまな人々が関与しているという社会の最低限の仕組みすら理解していないツチヤは、むしろすべてのつまらない人間の業と罪をかぶっているかのようだ。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
東京で人気漫才師・西寺に気に入られ、ラジオ局に出入りするようになったツチヤは、そこでも何も学ばず西寺の顔に泥を塗る。友達扱いしてくれていたピンクにも泥酔して悪態をつく。アホは通天閣から突き落とさな直らんと思わせる、岡山天音の突き抜けた演技が光っていた。
監督 滝本憲吾
出演 岡山天音/片岡礼子/松本穂香/前原滉/板橋駿谷/前田旺志郎/菅田将暉/仲野太賀
ナンバー 5
オススメ度 ★★*