こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

カラオケ行こ!

ふと耳にした天使のような歌声。少年の喉から発せられる澄み切ったソプラノは、歌下手なヤクザの胸を貫く。物語は、合唱コンクールを目指す中学生とカラオケ大会でカッコよく歌いたいヤクザの交流を描く。面子をかなぐり捨てたヤクザは少年に歌い方の教えを乞う。変声期を迎え合唱部と距離ができ始めている少年は、最初は脅え嫌っていたヤクザに強く求められるうちに彼と過ごす時間が楽しくなっていく。その過程で少年は、こわもてのヤクザも腹を割って付き合えば意外と人間的な魅力があると気づく。優等生だけれど反抗期にも差し掛かった中学生と全身入れ墨だが根は優しいヤクザが生み出す人情のハーモニー。人の運命は思わぬきっかけで変わり、その流れに乗る人生も悪くない。未知との遭遇は世界を広げてくれるのだ。

聡実の歌声を聴いた狂児は聡実に弟子入りし、毎日強引にカラオケに誘ってはレッスンを受ける。組長の前でうまく歌えないと罰が待っていると狂児から聞かされた聡実は改善点を伝える。

「紅」をカッコよく歌いたい狂児に裏声は気持ち悪いと指摘する聡実。歌の意味を理解せず表層をなぞっているだけの歌い方にダメ出しし、歌詞の英語パートを和訳して作者の苦悩と哀しみに共感させようとするシーンは、感情を込めて歌う大切さを教えてくれる。さらに、狂児の仲間が自己流丸出しで歌うと厳しく批判し、ヤクザが土下座して聡実の言葉に耳を貸す。自分の歌を聴くのは自分を見つめ直すこと。カラオケといえども選曲と歌い方に、大げさにいえば生き方そのものが投影されるのだ。聡実にとっても、いまや部活よりカラオケボックスが居心地いい。2人の熱唱は、真剣に取り組んでこそ歌は楽しいと訴える。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

後輩の怒り、お気楽な顧問、映画鑑賞会、音楽論、父親の傘の趣味、口うるさい母親etc. 聡実と狂児を巡る人々との、日常に宿る些細なやり取りがディテール豊かに再現されている上、大阪弁による絶妙のボケとツッコミを構成する脚本が素晴らしく、思わず腹を抱えて笑ってしまった。

監督     山下敦弘
出演     綾野剛/齋藤潤/芳根京子/橋本じゅん/やべきょうすけ/チャンス大城/八木美樹/後聖人/坂井真紀/宮崎吐夢/ヒコロヒー/加藤雅也/北村一輝
ナンバー     10
オススメ度     ★★★*


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