こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ライド・ライク・ア・ガール

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最高峰のレースに出て、勝つ。その思いは誰よりも強いのに、ただ女というだけでチャンスすら与えてもらえない。物語は、女性騎手が苦難と挫折を乗り越えて栄冠をつかむまでを描く。厩舎に生まれ、兄姉もみな騎手だった。幼少時から馬と過ごし馬の気持ちは理解しているつもりだった。地方競馬ではそれなりの成績を残した。だが、大都市の大きな競馬界はまだまだ男社会。調教を志願しても相手にされずセクハラも日常茶飯事。そんな状況で歯を食いしばり、レースからレースへとひとりでクルマを運転しながら転戦する。さらに厳しい体重との闘い。一晩で2.5キロ落とすためにラップを全身に巻き付けヒーターを最強にしてドライブしサウナで筋トレに励む。ボクサー並みの減量をこなすヒロインの姿は悲壮感が漂っていた。

10人兄姉の末っ子・ミシェルは子供のころから競馬場に出入りし、騎手になる夢を抱いていた。成長して騎手デビューを果たすがあらゆる面で干渉してくる父に嫌気がさし家出してしまう。

カートを引きずって競馬場についたミシェルを待っているのは露骨な女性差別。ロッカールームはなく物置で着替えなければならない。また、父のみならず姉たちも “女は一流の騎手になれない” と心のどこかで思っている。娘のひとりを落馬事故で亡くした父としては、ミシェルにこれ以上危険なことさせたくないと考えるのは当然で、結婚して引退した別の娘を大いに祝福する。一方で、自身も落馬して重傷を負ったにもかかわらず、ミシェルの競馬への情熱は一向に冷めない。葛藤を続けていた父娘が競馬トリビアで和解するシーンが印象的だった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

懸命のリハビリで復帰し勘を取り戻したミシェルは、進路妨害でペナルティを課せられたりもするが意気軒高。メルボルンカップで騎乗するために馬主会議に乗り込んで自分を売り込む。そして臨んだ本番。父の教えを守り、兄のサポートを受け、馬主やスポンサー、ファンの期待を背負ってミシェルは出走する。その雄姿は、勝負師に性別は関係ないと訴えていた。

監督  レイチェル・グリフィス
出演  テリーサ・パーマー/サム・ニール/サリバン・ステイプルトン/スティーヴィー・ペイン/ジュヌヴィエーヴ・モリス
ナンバー  113
オススメ度  ★★*


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https://ride-like-a-girl.jp/

今日から俺は!!劇場版

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ケンカは強いが女には弱い。セコイ手で勝とうとするけれど弱い者いじめはしない。ふざけているようで根はまじめ。物語は、そんな高校生が他校の抗争に巻き込まれていく姿を描く。札付きの不良ばかりが集まった高校が隣の高校を占領、支配される側の生徒がついた嘘が思わぬ災難をもたらす。最初は及び腰だったにもかかわらず、親友がブチのめされた事情を知るにつれ、彼らのやり方に怒りの炎を燃えあがらせる主人公。賀来賢人扮する金髪高校生は体をくねらせながらしつこく寒いジョークを連発し、橋本環奈扮する女子高生はわざとらしく猫を被る。ツッパリもスケバンもブリっ子も20世紀末には死語となっていたが、ディテール豊かに再現された1980年代のヤンキー風俗は奇妙な懐かしさを覚えた。ムロツヨシ金八先生風ロン毛が笑えた。

軟葉高校の三橋と伊藤は、開久高校を乗っ取った北根壊高校の番長・大嶽と遭遇するが逃げる。その後、三橋は女子高生に竹刀で襲われるが、その裏には大嶽と相棒の柳が仕組んだ陰謀が隠されていた。

無駄な暴力は望まない主義の三橋は見るからに強そうな大嶽や凶暴そうな柳との接触を極力避けている。だが伊藤はボコられている開久生徒を助けたことから大嶽と激突、全く歯が立たず惨敗する。なのに、三橋は自信喪失した伊藤を必要以上に茶化す。このあたり、仲間とか友情とか絆とか信頼とかいった暑苦しい人間関係を持ち出さず、あくまでも自分中心にものを考える三橋。リーダーとしての資質には著しく欠けるアホではあるが、その軽さがかえって心地よかった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、ストーリー展開がかなり強引な上、本筋とつながらないエピソードに時間を割くため、脈絡のない切り貼り感が拭いきれない。また、一発芸のようなギャグで時々クスリとはさせてくれるが、大笑いにまでは膨らまない。クライマックスの大乱闘も開久が北根壊を制圧してこそ意味があるのに、なぜか三橋が軟葉の子分を引き連れて参戦する。疲労した大嶽や柳を倒して勝ちと言えるのか?

監督  福田雄一
出演  賀来賢人/伊藤健太郎/清野菜名/橋本環奈/仲野太賀/泉澤祐希/山本舞香/柳楽優弥/栄信
ナンバー  112
オススメ度  ★★


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https://kyouore-movie.jp/

グレース・オブ・ゴッド 告発の時

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大人になっても決して癒えない、幼い心に刻まれた傷。自分が悪かったのではないかとひとりで苦悩し、親に打ち明けるまでに何年もかかった。勇気を振り絞って話してもまともに取り合ってもらえず、やがて時間と共に真実はうやむやにされていく。物語は、神父による性的虐待を告発する人々の戦いを描く。もう20年以上前の遠い記憶、だが忘れはしない。直接加害者本人を問い詰めるとあっさり事実を認める。ところが性犯罪として立証しようとしても法の壁が立ちはだかる。カトリックの信仰篤い町、絶大な影響力を持つ教会に対し、他の被害者たちの口は重い。それでもひとつずつ証言を集め支援者を募りネットとマスコミを利用して不正を糺していく過程は、行動こそが他人を動かし世界を変えると訴える。

かつてセクハラを受けたプレナ神父がいまだに現役で子供たちの聖書指導をしていると知ったアレクサンドルは、教会にプレナの懲戒を求める。しかし枢機卿は口先だけの対応でもみ消そうとする。

その後、同じく被害者だったフランソワやエマニュエルが声を上げ、被害者の会が立ち上がる。弁護士を雇い、様々な方法で世間に広報し、時効前の被害者を見つけて刑事事件にしようと警察の力も借りる。その間、プレナは上司である枢機卿に責任を転嫁し、枢機卿ものらりくらりと逃げ回るばかり。一方で、教会との軋轢を嫌がる者、過去を思い出したくない者など被害者の反応も多様。被害者の会の中でも急進的なフランソワが勇み足を諫められたり、主張が食い違っていたりする。そのあたり、最初から全員で一致団結するのではなく意見を戦わせながら着地点を見つけるなど、個人主義のフランスらしくて興味深い。延々と続くメール文の朗読も、事件の本質を理解するのに役に立った。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

本当に恐ろしいのは、長年聖職者たちが少年たちに性的虐待を加えてきたことだろう。プレナは氷山の一角、カトリックのみならず、あらゆる宗教の聖職者は同じ過ちを繰り返してきたに違いないと、この作品は問いかける。

監督  フランソワ・オゾン
出演  メルヴィル・プポー/ドゥニ・メノーシェ/スワン・アルロー/ジョジアーヌ・バラスコ/エレーヌ・ヴァンサン/エリック・カラヴァカ
ナンバー  111
オススメ度  ★★★


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https://graceofgod-movie.com/

私がモテてどうすんだ

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デブでメガネで学校の男子には興味がない。恋の相手は二次元のヒーロー、現実世界に背を向けてひたすらBL妄想にふけっている。物語は、そんな女子高生が激やせして美女に変身、突然モテ始めたのを機に起きる騒動を描く。男子とのデートは未体験。コクられた経験ももちろんない。言い寄ってくる男子はみなコミックに出てくる王子様に見え、彼ら同士が恋に落ちる展開を頭に浮かべて悦に入っている。だが本人の意思とは逆に、彼女の美貌を周囲は放っておかない。4人の長身イケメン男子に囲まれる幸せをかみしめようとはせず適度な距離を取りながらも、彼女が本当にやりたいことを見つけていく過程はコミカルで笑わせてくれる。さらに、主要登場人物が全員キレキレのダンスを披露し、ミュージカル的なノリもふんだんに楽しめる。

大ファンだったアニメキャラが死んだショックで1週間寝込んだ花依は、見違えるほどスリムになる。登校するとたちまち注目を浴び、早速4人のイケメンたちが接近してくる。

初めてのデートはアニオタの聖地、4対1の逆ハーレム状態ながら、オタクバレするのを恐れてなかなか本心を明かせない。その逡巡を、カメラを円回転させながらワンショットで撮影した映像は、ロケの制約もあって非常に緊張感を伴う一方、少し外したユーモアも忘れていない。デブに戻った花依を再びやせさせるための “ニンジン作戦” のご褒美がBLラブシーンの再現というのもユニークで、そのバカバカしさ加減が突き抜けている。リアルな恋愛など眼中になく、己の “萌え” の中で恋愛を完結させてしてしまう花依を肯定し、彼女を見守るスタンスも心地よい。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

演劇部からのヒロイン役オファーを受け稽古に励む花依だったが、その間またデブと美女を往復、一時は他人の期待に応えるために頑張ったりもするが、あやふやな態度が男子たちの心をもてあそんでいたと気づかされる。そしてやっぱり思いのままに生きるのが最善と知る。自分の人生の主役は自分しかいない、そう思わせてくれる作品だった。

監督  平沼紀久
出演  吉野北人/神尾楓珠/山口乃々華/富田望生/伊藤あさひ/奥野壮/上原実矩/坂口涼太郎
ナンバー  110
オススメ度  ★★★


↓公式サイト↓
https://movies.shochiku.co.jp/eiga-watamote/

SKIN/スキン

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憎んでいたわけじゃない。癒されたかっただけ。今の己は間違っている。そう胸の片隅で感じながらも虚勢を張っている。そんなとき出会った3人の娘を養うシングルマザー。物語は、レイシストグループに育てられた青年が思いやりを学ぶことで人生を変えていく過程を描く。“父” の命令は絶対だった。“母” はいつも気にかけてくれた。それが一種の洗脳だったと知ったとき、彼はシングルマザー一家と生きる道を選ぶ。だがそれはグループへの裏切り、世間もそう簡単には彼を受け入れてはくれない。顔から体にかけて彫られた数十のタトゥーは、社会への不満と、自分たちの権利を脅かすマイノリティへの怒りを象徴する。目に見える印はレイシストなりの覚悟ではあるが、それゆえの生きづらさも抱えている。その矛盾に苦悩する主人公の心がリアルに再現されていた。

ヘイトデモの先頭に立ち反対派との衝突にもひるまないバブスは、集会で知り合ったジュリーと仲良くなる。ふたりは付き合いだし、ジュリーの娘3人とも良好な関係を築くと、バブスはグループと距離を置く。

筋肉質の肉体とスキンヘッド、タトゥーだらけの顔と上半身を見せびらかすように暮らしているバブス。短気で暴力的な傾向はあるものの、ジュリーの娘・イギーとすぐに打ち解けるなど、根はやさしい男だ。まともな教育を受けず狭い世界で過ごしてきたがゆえに差別主義が間違っていると気づかない。一方で、“父” が腹をすかせた少年をリクルートするシーンなど、白人貧困層が構成員の供給源になっている。ジュリーとの結婚を本気で考え始めたバブスは仕事を探すが職安で断られるなど、反ヘイト団体からの締め付けもある。このあたり、こけおどしのタトゥーなど負け犬の刻印にすぎないと訴える。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ジュリーと別れるか更生するかの二択を迫られたバブス。反ヘイト団体リーダーに助けを乞うが、レイシストグループの嫌がらせが執拗に繰り返される。それでも信じてくれる人がいる。愛と信頼が人を変えるとこの作品は教えてくれる。

監督  ガイ・ナティー
出演  ジェイミー・ベル/ダニエル・マクドナルド/ビル・キャンプ/ゾーイ・コレッティ/カイリー・ロジャーズ/コルビ・ガネット/マイク・コルター/ヴェラ・ファーミガ
ナンバー  109
オススメ度  ★★★*


↓公式サイト↓
http://skin-2020.com/

インビジブル・シングス 未知なる能力

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変身して悪い奴らをやっつけるヒロインに憧れていた。強くなったわけではないけれど特殊な体質を手に入れた。だが、悪党を倒す前に自分自身が狙われてしまう。物語は、偶然透明人間になる能力を得た少女が、家族と世界を救う姿を描く。コミック好きで社交性は乏しい。やっとできた友達は転校生と機械オタク。そして少女は彼らと力を合わせて悪意を持った大人たちに立ち向かう。ママはいったい何者なのだろう。パパも知らなかった一面を垣間見せる。学校でも家庭でもいまいちイケていない彼女だったが、冒険が始まるとがぜん勇気とやる気がわいてきて、危険を顧みずに真相を究明しようとする。ただ、小学生向けに作られたと思われるこの作品、ほとんどの設定が安易な上、登場人物の感情をいちいち音楽で説明しようとする。もっと、主人公の孤独や苦悩に寄り添えば共感できたのだが。

ママの実験室に忍び込んだスーは開発中の化学物質を浴び、体温が上昇すると体が透明化するようになる。画期的な新発明だったが、ママはスーの目の前で男たちに誘拐される。

自らの身にも危機が迫っていると感じたスーは、学校の友人、カヤとトビーに協力を求め、ママを探す。カヤは天才的ハッカーであらゆる電子機器を操り、トビーは自転車でスーを助ける。そのあたりも対象が子供ゆえかアクションに切れ味はない。ユーモアにも乏しく、いかにも大人が考えた教育的映画の匂いが漂ってくる。また、トビーやスーの父、ママの上司といった男性キャラはあくまでも間抜けな設定の添え物で、善玉も悪玉も活躍するのはみな女性キャラというあたり、フェミニズムに走りすぎていてあざとい。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

まあ、小学生ならばそんなツッコミは入れずに素直にスーたちの冒険に心を躍らせるだろう。むしろ大人の裏をかく作戦やきりきり舞いさせる行動力が子供たちの想像力を掻き立てるのかもしれない。それでも、ディズニー作品のように少年少女の内面にフォーカスし、彼らの喜怒哀楽をリアルに再現していたのならば大人も楽しめたはずだ。

監督  マルクス・ディートリッヒ
出演  ルビー・M・リヒテンベルク/アンナ・シリン・ハベダンク/ルイ・エッヒハート/ビクトリア・マイヤー/リュック・シルツ
ナンバー  108
オススメ度  ★★


↓公式サイト↓
https://invisible-things.com/

WAVES/ウェイブス

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厳格な父の言葉に従い自分を厳しく律してきた。学業でも部活でも常に勝者になれと言われ、それなりに結果を出してきた。家族やガールフレンドとの仲も良好だった。物語は順調な人生を歩んできた高校生兄妹の挫折と再生を描く。彼女が妊娠を伝えてきた。鎮痛剤で抑えてきた肩の痛みが耐えられなくなった。しかし、期待してくれている父には相談できない。気持ちを打ち明けられる友人もいない。中絶を拒んだ彼女と決裂すると少年は一気に壊れていく。360度回転する自動車内のショット、サイケデリックな色調が加えられた夕日の沈む海、流麗なカメラワークに収められたカヌーやマナティ。そして彼らの感情を代弁する歌の数々。設定やストーリーが陳腐でも、クールな映像とポップな音楽で斬新な映画が成立するとこの作品は証明した。

黒人の両親・妹と暮らすタイラーは大学の奨学金を得るために勉強とレスリングに精進する毎日。ところが試合で負けて大けがをした上、恋人のアレクシスとは怒りに任せてケンカしてしまう。

父の忠告通り、カネを稼ぎ地位を得て美しい妻をもらう勝ち組になるはずだった。もちろんその分の社会的責任も負えるような大人になる。なのに、輝いていた青春がわずかな時間で暗転する。どう対処していいかわからない。ドラックを吸ってクルマを走らせる。何もかも忘れたい。悪夢を見ているだけと思いたい。だが現実はどこまでも追いかけてくる。焦燥と絶望と後悔ばかりが募ってくる。逃げても無駄と知りつつも、なんとか先延ばしにしようとあがくタイラーの空しく哀しい抵抗が切ない。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

人殺しの妹として心を閉ざしたエミリーは、学校で白人生徒のルークに声を掛けられ付き合うようになる。ルークはエミリーが抱える苦悩も人種の違いも問題にせず、彼女をひとりの人間と扱ってくれる。タイラーを止められたのに止めなかった己を責めるエミリーと、DVが原因で生き別れた父の最期を見届けようとするルーク。誰かを愛することで希望が生まれると彼らの行動は教えてくれる。

監督  トレイ・エドワード・シュルツ
出演  ケルヴィン・ハリソン・Jr/ルーカス・ヘッジズ/テイラー・ラッセル/アレクサ・デミー/レネー・エリス・ゴールズベリー/スターリング・K・ブラウン
ナンバー  107
オススメ度  ★★★


↓公式サイト↓
https://www.phantom-film.com/waves-movie/