こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

パリのどこかで、あなたと

f:id:otello:20201217110020j:plain

不眠症の男と過眠症の女。男はやさしすぎるがゆえに対人関係をうまく築けない。女は気遣うあまり恋が長続きしない。物語は、大都会でひとり暮らしをする男女の小さな悩みに満ちた日常を追う。職場の合理化で昇進した男はリストラされた同僚を心配する一方で、配置転換先で知り合った黒人の女とは波長が合わない。プロジェクトリーダーを任された女は過大な期待に押しつぶされそうになる。そしてそれぞれが心の不調の原因を突き止めた時、彼らの人生を停滞させていた足枷が取れる。隣り合ったアパートの最上階の部屋、手を伸ばせば届く距離に住んでいる。メトロや食料品店や通りで何度もすれ違っている。なのに、互いに気づかないまま。そんなもどかしい展開がふたりの未来を想像させる。

物流倉庫で働くレミー心理療法士から他人ともっとかかわれとアドバイスされ、SNSに登録する。研究者のメラニーマッチングアプリを紹介され、見知らぬ男とのデートを重ねるが楽しめない。

レミーは隣人から押し付けられた子猫を飼い始める。実家に帰っても胸襟を開く親族はおらず、話を聞いてもらえるのは心療療法士だけ。レミーが見せる子猫に対する無防備なまでのかわいがり方は、孤独から脱却したい彼の本心を象徴していた。メラニーもまたなかなか理想の相手が見つからず、思いは定まらないまま。彼女はレミーの部屋から逃げ出した子猫を保護する。レミーメラニーも家族のつらい記憶を抱えている。そのトラウマを克服できないうちは、本当に愛する人とは巡り合えない。それがわかりかけているのに具体的には何をすればいいのか思い浮かばない。すぐには出会わないふたりにやきもきさせられる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

運命の人など待っていてもやってこない。ネットの中にも存在しない。だが、身の回りの身近な現象をよく観察すればチャンスはいくらでも転がっているとこの作品は教えてくれる。レミーメラニーの人となりは、観客には十分伝わっている。似合いのカップルになる予感がした。

監督  セドリック・クラピッシュ
出演  フランソワ・シビル/アナ・ジラルド/カミーユ・コッタン/フランソワ・ベルレアン/シモン・アブカリアン/アイ・アイダラ
ナンバー  221
オススメ度  ★★★


↓公式サイト↓
https://someone-somewhere.jp/

天外者(てんがらもん)

f:id:otello:20201216111514j:plain

もう武士が刀を振り回す時代ではない。これからは貿易でカネを儲け工業を興し自前の軍隊を持たなければ、世界の潮流に乗り遅れ欧米先進国の植民地にされてしまう。物語は、幕末から明治初期にかけて日本の近代化に貢献した実業家の半生を描く。幼少時より一頭秀でていた。自信満々の若者に成長した後も研鑽を怠らず、常に10年先の国の姿を思い浮かべていた。だが反動的思想が幅を利かせ、たびたび刺客に命を狙われた。それでも、己の意思を決して曲げることなく走り続ける。その途中で知己を得た後のヒーローたちとの交流は、新国家建設という壮大な夢を語り合う若者たちの青春群像としても楽しめる。なにより、主人公を演じた三浦春馬の圧倒的な存在感と落ち着いたたたずまいは風格さえまとっていた。

薩摩藩の五代は藩主に命じられて蒸気船の購入に成功、一躍名をあげる。その後、薩摩と英国の紛争で英国海軍の火力を目の当たりにし、捕虜となるも単独で司令官と交渉、英軍を撤退させる。

いきなり英兵のサーベルを奪い司令官ののど元に突き付け要求を実行させる五代。殺されてもおかしくない場面だが、五代と交流のあった遊女・はるの計らいで、英軍は彼を横浜で解放する。だが薩摩藩からは裏切者扱いされ、街道を避け山道や海岸を抜けて長崎まで辿りつく。このあたり、五代がボロボロになった服をまといひたすら歩き続けるのだが、その間どういう苦労があったかは省略されている。その後、武器商人から資金を得て英国に留学、先進的な科学文明とデモクラシーに触れ信念をさらに深めていく。それら五代のエピソードは結果だけが示され、目標をクリアするために彼がどんな努力や創意工夫したかは省かれる。そのあたりをきちんと再現してほしかった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

明治になり、大阪を東洋一の都市にしようと立ちあがった五代は、街中の実業家・自営業者を集めて商工会の会頭に就任、壮大な演説をする。そこでも、高い理想を訴える言葉ばかりで具体的な方策に欠く。もっと全体的にディテールを突き詰めてほしかった。
監督  田中光敏
出演  三浦春馬/三浦翔平/西川貴教/森永悠希/森川葵/ 蓮佛美沙子
ナンバー  219
オススメ度  ★★*


↓公式サイト↓
https://tengaramon-movie.com/

新解釈・三國志

f:id:otello:20201215132615j:plain

民百姓に愛されたリーダーも、知略に長けた軍師も、天下無双の豪傑も、その人物像は後世の人々が勝手に創作したもの。本当はみな優柔不断で気が小さく無責任で女好き。フツーの人とそれほど変わらない。物語は、国が三つに分裂した中国、歴史上最大の決戦に臨む指揮官や腹心の武将たちの人間模様を描く。正史や小説とは正反対のキャラ設定、男たちはひたすら饒舌に口を動かし弱音と本音を吐きまくる。それは中原に鹿を逐う勇気や理想の裏で、いつ戦に負けて首を刎ねられるやもしれぬ心の叫びでもある。農民が苦しむ姿は見たくない。でも血を見るのはもっといや。覇権を目指した古代の英雄たちも、実はそう思っていたに違いないという着想がユニークだ。笑えないギャグの波状攻撃に、いつしかこの作品の世界観にどっぷりつかっていた。

魏の曹操後漢を簒奪し蜀の劉備は朝敵にされる。劉備孔明を参謀にスカウト、孔明は呉の孫権と同盟を結ぶことを進言する。長江を埋め尽くす魏の大水軍に対し、呉蜀連合軍は対岸で迎え撃つ。

酔ったはずみで天下国家を論じ大言壮語する劉備。素面の時はいつも逃げ腰で面倒くさいことを避けようとする。緒戦の黄巾党討伐で敵将のゴタク散々聞かされやる気をなくすところから、すっかり劉備のパブリックイメージを壊すことに成功している。当然、孔明三顧の礼など尽くすわけはなく、義兄弟の張飛関羽に頼りっぱなし。一方の孔明も伏龍とは名ばかりの浪人で、劉備のオファーを二つ返事で引き受ける。このあたり、先入観を完全にひっくり返す展開はかえってすがすがしい。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

そしていよいよ迎えた赤壁の戦い劉備は魏軍との圧倒的な兵力差に恐れをなしなんとか生き延びる方法を考えている。孔明孫権の前では大ボラを吹いて安請け合いしたのを後悔している。でももう後には退けないところまで追いつめられている。そんな彼らの姿は、タカ派の元首もやり手の実業家も、組織のトップは自信満々に振舞っていても内心ではおどおどしていると教えてくれる。

監督  福田雄一
出演  大泉洋/賀来賢人/橋本環奈/山本美月/岡田健史/橋本さとし/高橋努/岩田剛典/渡辺直美/ムロツヨシ/山田孝之/城田優/佐藤二朗/西田敏行/小栗旬
ナンバー  220
オススメ度  ★★*


↓公式サイト↓
https://shinkaishaku-sangokushi.com/

佐々木、イン、マイマイン

f:id:otello:20201214133636j:plain

夢をあきらめたわけではないが、うだつの上がらないまま時間が空しく過ぎていく。アルバイトで食いつなぐ日々、恋人とは別れたのにいまだ同棲している。なにもかもが中途半端なまま、前に進むガッツを持てず方向転換する勇気もない。そんな時脳裏によみがえるのは高校時代のあの男。物語は、役者志望の男が満たされぬ現状に悶々としながら過去の記憶に決着をつけようとする姿を追う。つるんでいた友人たちとは疎遠になってしまった。再会しても、懐かしさよりも何者にもなれていない現実を突きつけられ気分は沈み込むばかり。でも、あいつの思い出はなぜか自分を慰めてくれる。ところが、10年経った今ではわかる、あいつも苦しかったことを。不安定な生き方をしているからこそ理解できる、社会に適応できない男の気持ちがリアルに再現されていた。

バイト先で高校時代の友人・多田から声をかけられた悠二は、おだてると裸踊りをする佐々木の消息を聞かされる。佐々木の家庭事情は複雑だったが、彼らは木村を加えた4人でいつもつるんでいた。

悠二が覚えているエピソードは、決してきらめいてもいないし悲哀もまとっていない。まだ己が何に向いているかも、何をやりたいかも、その捜し方すらわからない。それでも悠二は佐々木に対してだけは、“こいつより悪い人生にはならない” と密かな優越感を抱いていたのだろう。仲はいいけれど心の底では小バカにしている。結局悠二は器の小さな人間、負の感情が次々と湧いてくるのを認めたくない葛藤が繊細に表現されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

佐々木の急死を知らされた悠二は、久しぶりに帰った故郷で佐々木にも親しい女の子がいた事実に驚くが顔には出さない。ふたりは付き合っていたのか、佐々木には釣り合わないほど彼女はかわいい。死んだ後も面倒を見る彼女を見て、悠二は元カノとの関係に筋を通さなければならないと思いいたる。勝っていたと思っていたのに実は負けていた。しかももう逆転の機会はない。佐々木を思う悠二の瞳は青春の蹉跌に満ちていた。

監督  内山拓
出演  藤原季節/細川岳/萩原みのり/遊屋慎太郎/森優作/小西桜子/河合優実/鈴木卓爾/村上虹郎
ナンバー  218
オススメ度  ★★★


↓公式サイト↓
https://sasaki-in-my-mind.com/

100日間のシンプルライフ 

f:id:otello:20201211095119j:plain

着るものはない。食べ物もない。与えられたのはだだっ広い空間。どれだけシンプルに暮らせるかを競う2人の男は、そこでなにが必要かを学んでいく。物語は、文字通り裸から始めて1日1アイテムずつを取り戻すルールの下、主人公の2人が世俗の欲望に塗れた己の人生を見直していく過程を描く。酔ったはずみの冗談のつもりだった。だが大勢の証人がいて、後には退けない。共同経営する会社の方針を巡る意見の食い違いもあり、真剣勝負の意味合いを帯びてくる。起業して成功するだけでは物足りない。その先にあるのはさらなる成功か、それとも人と人のつながりか。いかつい警護車両に守られた米国IT長者の小さなEVは、エコの仮面を被った貪欲な人間を強烈に皮肉っていた。

夜毎に許された私物のピックアップに向かった先の倉庫で、トニーはルーシーという謎めいた美女に恋をする。祖母を見舞ったパウルは病院でルーシーを見かけ、彼女の秘密を知る。

雪が積もる深夜のベルリン、靴も履かずに全裸で街を走るトニーとパウル。トニーが最初に選んだのはシュラフパウルはコート。その後もひとつずつ身につける必需品を選んでいく。パウルは自らが開発したスマホ人工知能アプリ・ナナを手放せない。一方のトニーは、ルーシーとの交際で精神の平衡を保っている。そして親友の2人の過去が少しずつ明らかにされていくが、彼らももう30代後半、心に抱えている葛藤は深く、10代の頃のように純粋な友情のみで結びついているわけではない。ガールフレンドを巡って起きた軋轢など複雑な思いを抱いていたなど、ずっとそばにいたからこそ起きる感情の齟齬が濃やかに再現されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その間、IT長者の買収や引き抜き工作があったりして、いつの間にかミニマル生活競争はおざなりになる。さらにルーシーが突然姿を消したのを機に、トニーとパウルの間に決定的な亀裂が入る。結局、男の友情を壊すのはカネと女。煩悩を捨てれば平和に生きられるとこの作品は訴えるが、アプローチの仕方違うのでは。。。

監督  フロリアン・ダービト・フィッツ
出演  フロリアン・ダービト・フィッツ/マティアス・シュバイクホファー/ミリアム・シュタイン/ハンネローレ・エルスナー/ヴォルフガング・シュトゥンフ/カタリナ・タルバッハ
ナンバー  216
オススメ度  ★★*


↓公式サイト↓
https://100simplelife.jp/

サイレント・トーキョー

f:id:otello:20201210213704j:plain

爆破予告されている場所・時間に集まる群衆。爆発なんて起きるはずはないと無邪気に信じている。警察官の言葉も届かずお祭り騒ぎはエスカレートするばかり。物語は、爆弾テロ犯と刑事の攻防を描く。犯人グループは爆発物に精通している。実働部隊は別にいる。巧妙に仕組まれた罠が一般人を巻き込み、彼らを利用して政府までも動かそうとする。動機は戦争に対する徹底した嫌悪感。クリスマスイブ、次々と起きる事件に翻弄されながらも容疑者確保に奔走する刑事と、周到に準備した計画を着実に実行に移す犯人グループの対比が鮮やかだ。平和ボケした日本人と戦争を知らないくせに戦争をできる国にしようとする総理大臣、そのどちらもが21世紀の日本を象徴していた。渋谷スクランブル交差点を完全復元したオープンセットが素晴らしい。

恵比寿で偽装爆破事件があり、犯人は総理大臣との対話を要求する。だが総理はテロリストとは交渉しないと断言。聞き込みに奔走する刑事の世田は怪しげなIT創業者に目をつけるが、証拠は何もない。

絶好のインスタ映えと自撮りする者で渋谷はごった返す。そこには将来に希望を持てない若者たちの、今を楽しまなければ損という気持ちが濃厚に反映されていた。そんな彼らが爆風に吹き飛ばされ、金属片・ガラス片に切り刻まれ、骨を砕かれ肉をえぐられる。この作品最大の見せ場である阿鼻叫喚の地獄絵図は表現に様々な工夫が見られ、爆弾テロを体感させてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、何も考えずに見ている分には次々と展開が変わり退屈させないが、ちょっと考えると設定はいい加減でツッコミどころ満載。まったく意外な人物が主犯なのだが、主犯をテロに導いた理由があまりにも薄い。戦争を知っているなどと言ってもPKOで紛争地帯の地雷処理をしただけで実際に交戦経験があるわけでもなく、まして家族がその遺志を継ぐなどとは開いた口がふさがらなかった。そこには百人規模の死傷者をだす事件を起こす正当性はまったくない。もう少し丁寧な脚本を作ってほしかった。

監督  波多野貴文
出演  佐藤浩市/石田ゆり子/西島秀俊/中村倫也/広瀬アリス
ナンバー  217
オススメ度  ★★


↓公式サイト↓
https://silent-tokyo.com/

ミセス・ノイズィ

f:id:otello:20201209111909j:plain

迷惑なのは相手の方、こちらは常識的に応対しているだけ。一度掛け違えたボタンは新たな誤解を生み、やがて憎しみに増幅されていく。物語は、低層マンションの隣同士に住む女作家とおばさん主婦のご近所バトルを描く。なにを言っても全く通じない上に、幼い娘まで人質に取られる。理解不能の言葉を発して非難してくる。ところが、トラブルを連載小説のネタにすると読者から大うけ、作家の指はリズミカルにキーボードを走り始める。そしてネットの大いなる罠。単にモンスター隣人との戦いで終わらせるのではなく、引きこもりやメディアスクラムといったさまざまな社会の闇に登場人物を引きずり込む構成は予断を許さず、先の読めない展開はスピーディでスクリーンから目が離せない。

転居したばかりの新居でいきなり徹夜仕事をする真紀は、明け方隣人の美和子が布団を叩く音に邪魔をされ、やめてくれと頼む。その日の午後、美和子は娘の菜子を無断で公園に連れ出す。

その後も、真紀に遊んでもらえない菜子は美和子の部屋に長居する。それを仕返しと思い込んだ真紀は、美和子と決定的に決裂する。美和子の布団叩きは続き真紀のスランプは長引く。隣人が得体のしれない夫婦という恐怖と腹が沸くような憤り、だが真紀はそれらを文章に昇華させて逆に快感を覚えていく。さらにいとこがアップした動画もバズり、真紀は一躍時の人に。リアリティは体験からしか生まれないと真紀は身をもって学ぶ一方でYouTubeの影響力を利用して知名度を上げる。そんな、いかにも現代的な設定が自分の身の周りでも起こるのではという不安を呼ぶ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

美和子からみれば真紀こそ母親失格のクレーマー。心身症の夫を抱え息子には早逝されている実態が明かされるにつれ、彼女の言い分も一理あると思えてくる。結局はコミュニケーションを欠いたことから起きた悲劇、引っ越したらまず隣近所に挨拶すべしとこの作品は訴える。真紀の深い感謝と強い後悔を表現する篠原ゆき子の首筋と鎖骨周辺の筋肉の動きが印象的だった。

監督  天野千尋
出演  篠原ゆき子/大高洋子/長尾卓磨/新津ちせ/宮崎太一/田中要次/風祭ゆき
ナンバー  215
オススメ度  ★★★*


↓公式サイト↓
http://mrsnoisy-movie.com/