こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

MINAMATA ミナマタ

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補助具なしでは動かない足、不自然に曲がった指。カメラを手にした少年はまともにシャッターすら押せない。彼がそうなった原因はわかっている。だが責任企業は頑として非を認めない。物語は、公害で健康を蝕まれた人々を支援するために来日した米国人カメラマンが、様々な葛藤を経て被害の実態を世界に知らしめていく姿を描く。酒におぼれ家族とは疎遠になった。借金を重ね機材も売り払ってしまった。プライドだけは高いけれどわずかなトラブルですぐに仕事を投げ出そうとする。かつては尊敬されるカメラマンだった。今はすっかり生気を欠き落ちぶれてしまった。そんな彼を支える通訳の女が美しさと毅然さを持ち合わせ、彼の弱気を戒める。本気になったらすごいのにテンションが上がるまでに時間がかかるややこしい主人公を、ジョニー・デップが繊細に演じていた。

日本語通訳・アイリーンの頼みで水俣にやってきたジーンは、その惨状に義憤を覚え、被害者と家族にレンズを向ける。だが、廃液を垂れ流しているチッソの社長から大金を提示される。

当然カネは拒否するのだが、後ろ髪引かれる思いはぬぐい切れない。その後から抗議派に対するチッソ側の嫌がらせはエスカレート、ジーン自身にも被害が及ぶ。カメラマンごときに何ができるのか。被害者救済は思いあがりなのか。虎の尾を踏んだと後悔するジーンの苦悩は、今まで何人もの告発者が様々な圧力で黙らされてきたと暗喩する。地元に密着した大企業、ほとんどの住民はチッソに依存して生活している。警察を動かす力さえ持っている。脅えおののきもうやめるとゴネ出すジーンの、ヒーローとは程遠いメンタリティがリアルに再現されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

あばら骨が浮き出た胸、枯れ枝のように細い脚の骨に張り付いた皮膚、目も見えず耳も聞こえない少女は24時間介護を必要としている。彼女を入浴させる母の気持ちを理解したことから、ジーンは人間として何をすべきかを悟り、覚悟を決める。環境破壊は結局人間に返ってくるとこの作品は教えてくれる。

監督     アンドリュー・レビタス
出演     ジョニー・デップ/真田広之/國村隼/美波/加瀬亮/浅野忠信/岩瀬晶子/ビル・ナイ/青木柚
ナンバー     171
オススメ度     ★★★*


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https://longride.jp/minamata/

君は永遠にそいつらより若い

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就職先は決まった。単位もほとんど取った。卒論の目途もついた。後は適当に講義に出てバイトをするだけ。物語は、大学4年の秋を迎えた女子大生が、さまざまな出会いを通じて世界を見つめなおしていく過程を描く。容姿も性格も悪くないけれど、他人を慮る余裕がない。気軽に話せる友人は男女ともに多いのに深い話はしない。頭に浮かんだ思いをうまく言葉に変換できず、取っ散らかったことしか言えない。変わり者だが常識の範囲内にかろうじて収まっている彼女が、知人の死と親友の過去に向き合ううちに、薄々気づいていたけれど目をそらしていた大切なものに触れていく。大人から見ればゆる~い学生生活に違いないが本人たちにとってはグダグダ送る日々もまた刺激的、そんなヒロインを見ていると大学時代が懐かしくなる。

友人の代理で出席するはずだった講義に遅刻してノートを取れなかった堀貝は、居合わせた猪乃木に声をかける。2人はすぐ打ち解け飲み友達になる。猪乃木は過去に大きな傷を負っていた。

いまだ処女であることを負い目に感じながらも自虐的に楽しんでいるようなところがある堀貝。ゼミのコンパで知り合った穂峰に強引に迫ったり、バイト先の後輩・安田といい雰囲気になったりする。堀貝の方はOKなのに、男たちはあと一押ししてくれない。男友達から女として見られていない堀貝は、それが心地よい一方で物足りなさも覚えている。相手の気持ちがわからない雑な女と自覚している彼女に男の繊細さが理解できるはずもなく、まったく恋愛の対象にされていない。ジェンダーフリーを疑わずに育った女の現実。堀貝の非モテは、男らしさ女らしさを否定するリベラル教育の産物なのだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

突然穂峰が死に、猪乃木に大きな傷を見せられ、安田に童貞を告白される。何事もないように振舞っている友人たちが、実は大きな苦悩を抱えていたと知った堀貝。社会に出ればもっと大きな悪意や悲劇に出会うだろう。それでも何とかやっていけそうだと、少し成長した堀貝の大きな背中が語っていた。

監督     吉野竜平
出演     佐久間由衣/奈緒/小日向星一/笠松将/葵揚
ナンバー     170
オススメ度     ★★★


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https://www.kimiwaka.com/

アイダよ、何処へ?

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敵が攻めてくる。避難民が押し寄せてくる。一応、自分の安全は保障されているがIDのない避難民の命はどうなるかわからない。物語は、ボスニア紛争時、国連軍の通訳として働いたヒロインが愛する者たちを守ろうと奮闘する姿を描く。あちこちに手を回すが、その気遣いは先走りすぎて空転するばかり。敵は交戦規定など持っていないならず者だとわかっている。一方で、敵の中に顔見知りがいたりして、数年前までは異教徒同士でも平和的に共存していたことをうかがわせる。何が友情を敵意に変えたのか。何が信頼を憎しみに変えたのか。仲介に入ったはずの国連軍がまったくの役立たずで、想定外の事態に狼狽し、責任逃れに終始する。その有様は、先進国が “人道支援” という上から目線で他国の紛争に介入する難しさを象徴する。

セルビア軍の侵攻で街を追われた市民はオランダ軍管理下の国連軍基地に殺到するがほとんどの人は敷地に入れない。アイダは彼らの中に夫と息子たちを見つけ、策を講じてゲートを通す。

セルビア軍への空爆計画を国連軍に反故にされたオランダ軍の士気は低く、撤収しか考えていない。当然残された避難民は見殺しにされる。国連の後ろ盾を失ったオランダ軍はセルビア軍との交渉にも弱腰で、ほとんど言いなりになるしかない。アイダもエゴを丸出しにし、家族だけは助けようと時に強引な手口で上官に迫り、完全に職業倫理を逸脱した行動に走っている。高潔な理念で規則を守り抜くなどというのは平時のきれいごと、いざ命の危険にさらされれば多少の不正を犯しても生き延びようとする。そんなアイダの、目の前のことで手一杯という切迫した気持ちがリアルに再現されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

セルビア軍は避難民たちをバスに乗せ安全な場所に移動させると提案する。彼らがどんな運命をたどるのかを知っていて、やっと言い訳が立つと安心するオランダ軍。圧倒的な暴力の前では、人間はなすすべもなく殺されていく。その無常観に打ちひしがれたアイダの瞳に戦争の本質が凝縮されていた。

監督     ヤスミラ・ジュバニッチ
出演     ヤスナ・ジュリチッチ/イズディン・バイロビッチ/ボリス・レール/ディノ・ブライロビッチ/ヨハン・ヘルデンベルグ/レイモント・ティリ/ボリス・イサコビッチ
ナンバー     169
オススメ度     ★★★


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https://aida-movie.com/

マスカレード・ナイト

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年の暮れに発見された他殺死体、直後に大みそかの夜に再び惨事が繰り返されるという密告状が警察に届く。物語は、都心部にある一流ホテルで殺人事件が起きると予告された警察が大量の捜査員を投入して事件の謎を解き、犯人を確保する過程を描く。捜査員とホテルマン、現場のリーダー同士は旧知の仲、そりが合わないけれどお互いが非常に優秀であることは理解している。口げんかは絶えなくてもいざというときは一番頼りになる相手、ホテル内のあちこちで起きる小さな事件と訪れるさまざまな奇人変人クレーム客に対応する。その間にも刻一刻と迫る犯行時間、2人はホテル内を縦横無尽に走り回り、次から次へと起きるトラブルを解決していく。警察による犯人捜しよりも、捜査本部とホテル側のプライドをかけた駆け引きが印象的だった。

みそかにホテルで催されるカウントダウンパーティ「マスカレード・ナイト」に殺人犯が現れるという情報が警察に届き、新田以下捜査員はホテル従業員に偽装して参加者をチェックする。

ホテルのコンシェルジュ・山岸はこの日も無理難題を吹っ掛ける客に右往左往しながらも抜群の機転と行動力で解決していく。新田は彼女の協力を得て、怪しげな客をひとりずつ調査していく。2人のやり取りはスリリングかつコミカルで、人気テレビドラマの延長線上にいるような気分になってくる。十数人に及ぶ主要登場人物も顔なじみの俳優ばかりで交通整理も手際よく、奇妙な安心感があった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、風船で看板を隠したり逮捕状もなしに身柄を拘束したり登用試験に一般客を巻き込んだりするのは、明らかに法的にもモラル的にも逸脱している。そもそも設定に無理があったが、もっと説得力のある解決策を考えられなかったのか。さらに、望遠レンズでカーテンがかかっていない向いの部屋を覗き見るのを問題視したら、ヒッチコックの「裏窓」はどうなるの? まあ、キムタクと長澤まさみ夢の再共演、ファンタジーにツッコミを入れるのは野暮というものか。

監督     鈴木雅之
出演     木村拓哉/長澤まさみ/小日向文世/田中みな実/石黒賢/沢村一樹/勝村政信/木村佳乃/麻生久美子/高岡早紀/博多華丸/鶴見辰吾/篠井英介/石橋凌/渡部篤郎
ナンバー     167
オススメ度     ★★


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https://masquerade-night.jp/

パンケーキを毒見する

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野党議員の鋭い質問に対し、決して言葉を明瞭にせずのらりくらりと答弁する。官僚からのメモを読み上げるのも、国会での質疑応答ではおなじみの光景だが、みなマスクを着用しているので細かい表情まではうかがい知れない。カメラは ’20年9月、コロナ禍真最中に就任した総理大臣の動向を追う。元々、嘘をつかず有言実行の人だったと証言する国会議員がいる。だが、党内での権力闘争に勝ち残り、圧倒的な支持率を得ても、なかなかコロナ対策は進捗しない。やがてもろもろの問題が表面化すると国民にあきらめムードが漂い始める。映画は、この短命内閣の功罪を客観的に検証するのではなく,“権力の監視” というお題目の元、徹底的にこき下ろす。アニメや再現映像などを使ったその印象操作はすさまじく、もはや左翼のプロパガンダの域に達している。

安倍首相辞任後、総裁選挙に圧勝して第99代首相になった菅義偉。だが、コロナ対策失敗による緊急事態宣言の頻出や日本学術会議任命拒否問題などで野党から強烈な追及を受ける。

赤旗」といえば共産党の機関紙程度の認識しかなかったが、広告に依存せず購読料のみで運営し、純粋なジャーナリズムを標榜しているところには驚いた。全国紙が書かないネタもネット公開情報を丹念に調べ上げて裏を取る。さらに国会で小池共産党委員長がその事実を菅総理に突き付ける。共産党と「赤旗」が車の両輪のように機能し、与党や官僚による無駄遣いを追及するのだ。共産党が実権を握った国では例外なく言論は統制されマスコミは政府発表を垂れ流しにする。共産党が政権を取る心配がないからこそ「赤旗」の自由が保障されているという皮肉。それは、まだもう少しの間は日本の民主主義も大丈夫ではないかと思わせる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

一方で、退官した元官僚に内調出身者の腹心を使って黙らせるやり方にはぞっとする。もちろん遠回しにほのめかすだけだが。それでもフィクションとしか認識していなかった出来事が当事者の口から語られると、やっぱりリアリティが違う。

監督     内山雄人
出演     石破茂/江田憲司/古舘寛治
ナンバー     168
オススメ度     ★★*


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https://www.pancake-movie.com/

レミニセンス

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その記憶の中の出来事は本当だったのか。それともそうありたいと願った情景が脳裏に焼き付いているだけなのか。物語は、他人の記憶を3D映像に再生することを生業にする男が運命の女に出会ったのを機に陰謀に巻き込まれる姿を描く。幸せな思い出に縋り付き現実から逃避する者もいる。警察は犯罪捜査に利用しようとする。だが、比較的新しい記憶は鮮明でも、心が勝手に上書きした記憶もある。主人公は己の直感を信じ女の行方を追うが、彼女の足跡は裏社会につながっている。低地が水没した近未来、金持ちだけが陸地に住み下層市民はボートでの移動を余儀なくされる。より広がった格差は現代社会の延長線上にあるように思えた。水上を滑るように走る列車は、「千と千尋の神隠し」のワンシーン思い出させてくれる。

失くした鍵を探したいというメイの依頼を受けたニックは、彼女と深い関係になる。その後、オフィスの前でメイのイヤリングを拾ったニックは、消息を絶ったメイを探し始める。

ある事件の容疑者の記憶を再現したニックは、そこにメイがいることに動揺、犯罪に巻き込まれたと確信して彼女を救出に向かう。メイは麻薬組織のボスと関係していてトラブルを抱えている模様。ニックは自ら繰り返し記憶再生装置に入り浸り、メイと過ごした時間を反芻し始める。入り混じる現実と偽りの記憶、幸せだった思い出こそがたったひとつ真実と信じたまま年を重ねた女が登場するが、彼女が抱える病と同じ種類の妄想がニックの心を蝕み始める。ただ、そのあたり「記憶の正確さ」がどのあたりまで信用できるものなのか設定が甘く、誰かを騙すために大掛かりな芝居をすれば、その記憶が事実と認定されてしまう可能性があるのではないか?

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

案の定、ニックはメイの背後にいる男の術中にはまり、彼らに踊らされている。それでも持ち前の行動力で社会の裏でうごめく勢力ともみ消された殺人事件を明らかにしていく。その過程はビジュアル的にはユニークだが、謎が謎を呼ぶ展開というにはディテールが甘かった。

監督     リサ・ジョイ
出演     ヒュー・ジャックマン/レベッカ・ファーガソン/ タンディ・ニュートン/クリフ・カーティス/ダニエル・ウー
ナンバー     166
オススメ度     ★★*


↓公式サイト↓
https://wwws.warnerbros.co.jp/reminiscence-movie/

護られなかった者たちへ

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縛られたまま放置され衰弱死した男2人。彼らはいずれも信頼できるいい人として評判の人間で、決して他人の恨みを買うようなタイプではない。物語は、連続殺人事件を追う刑事が被害者の別の顔をあぶりだしていく過程で、大震災が残した深い傷跡を浮き彫りにしていく。愛する者を失った同士がお互いの支えとなっていた。なのに行政は被災者に手を差し伸べるどころか、むしろ援助から遠ざけようとする。そんな矛盾に怒った若者は暴走するが、無力感に打ちひしがれるだけ。受ける権利のある人々は恥と思い、受ける必要のない者ほどだまし取ろうとする生活保護。娘の塾代のためにパートに出たシングルマザーが訴える窮状は、本当に必要としている人々に行き届かない制度の盲点を衝いていた。貧困ゆえに飢える、21世紀の先進国では考えられない現実がリアルに再現されていた。

福祉職員殺害事件担当となった笘篠は、放火罪で服役を終えたばかりの利根に目星をつける。利根は津波被害の避難所で幹子という少女と知り合い、2人で圭という老婆の世話になっていた。

憎むような恨むような視線で世間を見る利根は、いかにも凶事を働きそうな雰囲気をまとっている。人を寄せ付けず、笑顔は絶対に見せない。利根の心を開いた圭も哀しい過去を背負って生きている。幹子もまた両親を亡くしている。一方で震災からの復興は生き残った者たちに、希望も与えないまま生き続ける義務を押し付ける。なのに、人々に安心できる生活を保障すべき役人が原理原則にこだわりきちんと機能しない。膨大な業務量を少しでも減らしたいのだろう、生活保護を受給する後ろめたさに付け込んで申請をあきらめさせるのだ。真面目で正直なほどこぼれ落ちていく、自己責任や自助努力という言葉に押しつぶされた弱者の気持ちが痛切だった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

2人の被害者の共通点が明らかになり、第3の事件に備えて笘篠は警備に当たる。そして現れた男。己のためではない、守るべき人がいるからこそわが身を犠牲にできると彼の勇気は教えてくれる。

監督     瀬々敬久
出演     佐藤健/阿部寛/清原果耶/林遣都/永山瑛太/緒形直人/吉岡秀隆/倍賞美津子
ナンバー     125
オススメ度     ★★★


↓公式サイト↓
https://movies.shochiku.co.jp/mamorare/