こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

老後の資金がありません!

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きっかけは義父の死。葬儀代の支払いを押し付けられた上、金銭感覚がまったく違う義母を引き取り、さらに娘は豪華な結婚式を挙げると言い出す。非正規雇用でがんばってやりくりして貯めた預金700万円が見る見るうちに目減りしていく。物語は、夫婦子供2人の平凡な4人家族の主婦が、老後資金という毒語に惑わされ振り回される姿を描く。夫は万事頼りにならない。息子は不満を垂れるだけ。娘は自分勝手。そしてやってきた義母はセレブ気分が抜けきらない。底のすり減ったバッグを捨てられず夕食は豚もやし鍋、パートにヨガに駆けずり回りながら節約に勤しむヒロインを天海祐希がはつらつと演じる。親の面倒と自分たちの老後、年金と失業と低賃金etc. 日本社会の “今そこにある危機” をリアルに再現しては気が滅入るだけ、コミカルな演出に徹したおかげでピンチはチャンスと希望が持てた。

義父のために立派な葬式を挙げるが参列者はほとんどおらず香典も少ない。結局400万円近い出費を強いられた篤子は、月9万円の仕送りを節約するために義母との同居を提案する。

かつて裕福な暮らしをしていたのか、篤子とはまったく価値観が違う義母は金遣いが荒くカード会社から督促状が来る羽目に。それでも反省の色はなく篤子のストレスは膨らむばかり。娘の婚約者の両親が持参した結納金が予想通りのオチになるあたりもう少しひねりを聞かせてほしいところだが、あまり複雑にしてもこの作品の対象となる世代には難しいのだろう。ベンツ持ちの妹夫婦がケチだったり、結婚した娘が遠慮なく食料を持ち帰ろうとしたり、老親の年金を不正受給しようとしたり、パート主婦にとっての「あるある」エピソードの連発は適度にデフォルメされていて楽しい。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

知人の老父に襲われたのをきっかけに仲良くなる篤子と義母だったが、義母が今度は生前葬をすると言い出す。カネのことでいっぱいの篤子の思考回路には少しうんざりしたが、この作品で提示された老後の選択肢はどれも身につまされるものばかりだった。

監督     前田哲
出演     天海祐希/松重豊/新川優愛/瀬戸利樹/加藤諒/柴田理恵/石井正則/若村麻由美/高橋メアリージュン/レイナ高橋メアリージュン/草笛光子
ナンバー     198
オススメ度     ★★*


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そして、バトンは渡された

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産んでくれた母はよく知らないけれど、実の父にはかわいがってもらった。継母は全身で受け入れてくれたのに、ある日突然消えてしまった。2人目の父も3人目の父もなぜか血のつながらない自分を我が子のようにかわいがってくれる。物語は、死別再婚離婚再々婚別居と大人たちの都合に振り回されながらも、やさしさに満ちた人格に育った娘の半生を描く。少女の親になる人々は大きな心と理解力を持った善人ばかり。ひとりっ子で友達も少ないからだろう、その環境に疑問を持たないまま成長していく彼女の視点から見た世界とはいえ、デフォルメされたキャラクターの数々は軽いコメディタッチで少しミステリアス。DVもモラハラも一切ない夫婦・親子関係のなかでヒロインが大切に慈しまれる姿は、手の届かないユートピアにいるようだった。

泣き虫のみぃたんは父の再婚で梨花という母を得る。だが父は単身ブラジルに渡航、みぃたんと梨花の2人暮らしが始まる。ほどなく梨花はみぃたんを連れ富豪の屋敷に転がり込む。

毎日の食事・キャラ弁づくりだけでなくピアノの防音室まで用意するという優子の継父・森宮。高校卒業を控えた優子は森宮の押しつけがましいまでの思いに守られ、つらい時でも笑顔を絶やさないよう心掛けている。だが、同級生のピアニスト・早瀬に心の中を見透かされ、逆に気になって仕方がない。二言目には「父親として」と口にする森宮は常に優子の幸せを最優先させるが、早瀬の母は正反対。対照的な境遇ゆえに惹かれ合うふたりは、お互いに補完関係がある方が深く結びつくと訴える。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

みぃたんと優子の秘密が明らかになると、梨花の人生がにわかにクローズアップされる。なぜ梨花のわがままを男たちは許したのか、なぜ梨花はみぃたんをあれほどまでに溺愛したのか。早瀬との結婚を決意した優子は、今までかかわった “父親たち” を訪ね歩くうちに真実を知る。その過程は、世界は常に善意と愛情にあふれ、必ず誰かが見守っていてくれるという、人生を肯定する気持ちにさせてくれる。

監督     前田哲
出演     永野芽郁/田中圭/岡田健史/稲垣来泉/石原さとみ/大森南朋/市村正親
ナンバー     197
オススメ度     ★★*


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ビルド・ア・ガール

 

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小柄で太めでダサ眼鏡。読書好きが高じて頭の中はいつも空想だらけ。文章を書くのは大好きで将来は作家志望。でも現実は甘くなく、学校ではイジられる日々が続く。物語は、外見はイケていなくても気持ちだけは驚くほどポジティブな少女が、過激な体験を通じて、夢を追う輝きと他人への思いやりを学んでいく過程を描く。根拠もなく自信に満ちているが周囲の評価がついてこない。一度くらいの失敗ではめげず、何度でもチャレンジする。押しが強く相手が肯首するまであきらめない。いささか自己チューで迷惑な存在なのだが、自分が美人ではないことは理解していて “女” を武器にしていないところがほほえましい。色濃く残る社会の「階級」を乗り越えてのし上がるには、これくらいの行動力と胆力が必要とこの作品は教えてくれる。

ロック紙からバンド批評の依頼を受けたジョアンナは豊かな表現力で実力を伸ばしていく。初めてのインタビュー相手・ジョンに気に入られ、ライブの後に彼の身の上話を聞かされる。

ジョンについて書いたラブレターのような原稿はボツにされ、代わりにジョアンナは辛口批評家に転身する。売り出し中のバンドを片端から辛辣の言葉でけなした記事は読者に受け、ジョアンナは仕事を増やしていく。業界で賞を取ると彼女の鼻はますます高くなり、学校をやめると宣言する。一方で、産後鬱の母は、彼女の収入を当てにするようになり、仲の良かった家族の間にも罅が入る。突飛な行動にも文句を言わず付き合った父に対しても反抗的な態度をとる。このあたりのジョアンナの直情径行は、まだ本格的な挫折を知らないが故の傲慢さが生んだのだろう。もう少しコミカルな味付けの方が共感できたかも。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ジョンに再会したジョアンナだったがあっさり袖にされる。ジョンはジョアンナに恋愛感情はない。人間は外見より内面と信じたい人もいるが、やはりジョアンナに性的な魅力はない。恋をしたいのならばせめて標準体型にまで痩せるべき、そうすればリアリティが出たはずだ。

監督     コーキー・ギェドロイツ
出演     ビーニー・フェルドスタイン/パディ・コンシダイン/サラ・ソルマーニ/アルフィー・アレン/ローリー・キナストン/エマ・トンプソン
ナンバー     196
オススメ度     ★★*


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CUBE 一度入ったら、最後

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目覚めるとフラクタルな立方体の中にいる。前後左右上下に頑丈なドアがついている。見知らぬ人々も一緒にいる。誰もが、なぜ自分がここに連れてこられた理由がわからない。物語は、狭い空間に閉じ込められた6人の男女が様々なトラップをかいくぐって出口を探す姿を描く。同じ部屋にとどまっていてもなんの解決にもならない。とりあえず安全を確かめて隣の部屋に移動する。部屋の配列には素数が関係しているらしい。だが。気が付くと元の部屋に戻っていたりもする。これはいったい罰なのか。どうしてこんな状況に陥ったのか。大きな意思が働いているのか。部屋から部屋へ移動する過程で、彼らは過去の言動を見つめなおしていく。そう、これは脱出口にたどり着くまでの道のりであるとともに、己が歩んできた人生を問い直す旅なのだ。

裕一、真司、麻子、千陽が途方に暮れている部屋に井手がやってくる。井手はひもの先に結んだ靴でトラップの有無を確かめながら勝手に進んでいく。しばらくして安東と名乗る男と合流する。

井手は経験豊かでトラップのパターンを熟知している上に何らかの秘密を知っているようだが、多くを語らず他のメンバーには命令口調で接する。裕一は千陽とともにトラップ部屋のパターンと三次元座標を解析する。真司は役に立たず安東は不機嫌に怒鳴っているだけ。麻子は冷静だが何を考えているかわからない。このキャラ設定だけで誰が脱落していくのか大体の予想はつく。胴体を四角くくりぬかれたり、炎を噴射されたり、ブレードドリルが回転したり、レーザーで照射されたりと、アイデア豊富なトラップの数々は、その餌食になる人間が変わり果てた肉片になるところまで予想ができ、不快感を盛り上げる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

部屋の外で何かが動いている音を察知した裕一は、一部屋ずつ座標を計算しつつ移動して出口に近づく。そしてトラウマと真正面から向き合い、何をすべきかを悟る。わかりやすい種明かしなどせず、ほとんどの謎を謎のまま放置する潔さはかえって心地よかった。

監督     清水康彦
出演     菅田将暉/杏/岡田将生/柄本時生/田代輝/山時聡真/斎藤工/吉田鋼太郎
ナンバー     195
オススメ度     ★★*


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https://movies.shochiku.co.jp/cube/

G.I.ジョー 漆黒のスネークアイズ

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父の仇を探して20年の歳月が流れた。地下格闘技の世界では名の知られた存在になった。裏社会とのつながりで復讐のめどがついた。物語は、LAの格闘家が日本のヤクザにスカウトされ、忍者一族の跡目争いに巻き込まれる姿を描く。命がけで助けた男は忍者の血を引いていた。巨大な組織の後継者だった。友情をはぐくみ試練を乗り越えるうちに信頼関係を築いたはずだった。だがそこで待ち構えるのは裏切りと嘘、予想もしないどんでん返し。富士山近くの東京の空港、巨大な城郭に住む忍者一族、和室のベッド、セキュリティの甘い宝玉、褌を締めたまま入る銭湯、ヒュンダイ製のクルマetc. 次から次へと繰り出される “これはやったらアカンやつ” 的なシーンの連続はもはや開いた口が塞がらない。ツッコミどころ満載の映像は、逆にカルト映画となる予感さえ漂わせている。

鷹村に殺されそうになったトミーを救ったスネークアイズは、嵐影派の食客に迎え入れられる。そこでスネークアイズは、組織の一員としての適性を見るために3つの試練を課される。

格闘技の達人相手に水を入れたどんぶりを奪い合う第1の試練は禅問答のようで気が利いている。だが、それ以後は中途半端で、大きな穴での第3の試練には思わず吹き出してしまった。また、スネークアイズが情報を欲しがっている宝玉について、なぜかトミーは部外秘の機密までペラペラしゃべってしまう。その後も、張りぼて張りぼてを重ねたような安っぽい展開が繰り返さる。こんな企画にゴーサインを出したプロデューサーの勇気に感服した。ヒューンと加速する電動バイクだけは非常にクールだったが。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後も敵味方離合集散を繰り返し、結局スネークアイズたちは鷹村1人相手に戦う展開になる。鷹村は宝玉のパワーを利用して圧倒的な戦闘能力を見せるが、まあ、予想通りの最期を迎える。そのあともなんかごちゃごちゃしていて、結局、対テロ組織・GI派とテロリスト集団・コブラ派に分かれる。今後の伏線が張ってあるが、続編はあるのだろうか。

監督     ロベルト・シュベンケ
出演     ヘンリー・ゴールディング/アンドリュー・小路/ウルスラ・コルベロ/イコ・ウワイス/ピーター・メンサー/サマラ・ウィービング/ 平岳大/安部春香/石田えり
ナンバー     193
オススメ度     ★★


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https://gi-j.jp/

ロン 僕のポンコツ・ボット

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喜怒哀楽はもちろん、人間のあらゆる意思や行動を先回りして生活全般を快適にするAIロボット。中学生にもなると1人1台誰でも持っている。物語は、不良品のロボットを手に入れた少年が本当の友達とは何かを模索する姿を描く。友情でさえアルゴリズムに変換されている。忠実な執事のように寄り添っている。ところが、ネットに常時接続されているロボットたちの真の目的はあらゆる個人情報の収集。どこで誰がいつ何をやっているか、すべては記録され保存される。便利さと引き換えに手に入れたもの、それは強大な権力に監視され管理されるプライバシーのない未来なのだ。中国のようなハイテク強権国家ではスマホがその役割を果たし自由が奪われ続けている。いずれ人類にデジタル放棄が起きるのではと予感させる作品だった。

中学校でひとりだけB-ボットを持っていないバーニーは、人間の友達もおらずいつも孤独を感じている。父と祖母は不良品を手に入れ誕生日のプレゼントとしてバーニーに贈る。

バーニーはB-ボットにロンと名付ける。ロンは制御回路が壊れていてネットからも独立しているため、製造元は後を追えない。中途半端な自我を持つロンは、“好奇心” や “本能” などと人間が呼ぶ “情動” のようなプログラムが働いているのか、バーニーの命令を聞かずあちこちでトラブルを起こす。手間はかかるが一緒だと楽しい、そんな存在こそが本当の友達であるとバーニーは気づく。バーニーとロンの関係は対等になりやがてお互いが親友と認識し合うまでになる。AIが人間にとって代わる世界、断じて不幸だと思うのだが、デジタルネイティブ世代には抵抗なく受け入れられそうで怖い。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

メーカーはロンを回収しようとする。バーニーはロンとともに森に逃げる。もはやロンは人間と同じくらい尊い存在になっている。そして、上書きされたロンの “魂” を取り戻すためにバーニーは命がけのミッションに挑む。子供向けのアニメだからできる冒険、だがそこに込められたDX時代への警鐘は辛辣だった。

監督     ジャン=フィリップ・バイン サラ・スミス
出演     ザック・ガリフィアナキス/ジャック・ディラン・グレイザー/オリビア・コールマン/エド・ヘルムズ/ジャスティス・スミス
ナンバー     194
オススメ度     ★★★*


↓公式サイト↓
https://www.20thcenturystudios.jp/movies/ron

ひらいて

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集団ダンスでもクラスでもセンターにいなければ気が済まない。好意を寄せている男子の彼女が目立たない地味な子なのが許せない。物語は、自己チューな女子高生が歪んだ三角関係を構築するうちに自分の本性を見透かされていく過程を描く。すごく美人で勉強もでき、運動神経もよい。友達の面倒見もよく、好きでもない男子に告白されたりもする。母にはそっけなく接し、留守がちな父には興味がない。とりあえず学校では外面はよく人気はあるが、心の中ではどす黒い欲望が渦巻いている。そんな二面性のあるヒロインの輝いていた世界が、自らがまいた種で崩壊していく過程は、人間の本質とはかくも醜いものだと教えてくれる。主要な登場人物は3人とも片親。両親がそろっていない高校生は、やはり精神的にアンバランスなものなのか。

低血糖で倒れた美雪に口移しでジュースを飲ませた愛。クラスメートのたとえの机から手紙を盗んだ愛は、差出人が美雪だったと知る。たとえと美幸は中学時代から付き合う仲だった。

愛は美雪に近づいて友達になる。糖尿病を患い高校でも友人がいなかった美雪は、愛の強引さに戸惑いながらもうれしさを隠せない。たとえと美幸がまだキスさえしていないのを聞き出した愛は、美幸とキスするだけでは飽き足らず体さえ求め始める。美雪との距離を詰めることで、自分を袖にしたたとえを見返してやろうと企むのだ。愛のどろどろとした感情が少しずつ煮詰まっていく様子には、ホラー映画のようにゾクゾクした。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

受験シーズンが迫る。愛は推薦をもらえるポジションにいながら投げやりな態度で教師を困らせる。たとえは東京の大学を受験し、美雪は進学よりもたとえについていく道を選ぶ。ふたりだけの世界で穏やかな人生を過ごしたいたとえと美雪。平凡さなどぶっ壊したい愛。ただ、男の立場から見て本当に恐ろしいのは、わかりやすい愛よりも、主張は控えめでもうまくたとえをコントロールしている美雪のようなタイプ。難しい役どころを芋生悠が繊細に演じていた。

監督     首藤凜
出演     山田杏奈/作間龍斗/芋生悠/板谷由夏/田中美佐子/萩原聖人
ナンバー     192
オススメ度     ★★★*


↓公式サイト↓
http://hiraite-movie.com/