こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

バーニング・ ダウン 爆発都市

任務で左足を失った。だが情熱は少しも衰えていない。懸命のリハビリで体力は健常時並みに戻った。それなのに上層部は厄介払いする。物語は、爆弾や狙撃で次々と無差別テロを起こすグループと対応に当たる警察、その2つの組織の間でアイデンティティを取り戻そうとする男の苦悩と葛藤を描く。なぜ警察官の鑑だった男がテロリストになったのか。記憶喪失のせいで本人も思い出せない。一方超人的な身体能力は健在で、数十人の警官を相手に大立ち回りを演じても傷つかない。片足のままで車いすを操りキックを見舞い廊下を走って階段をジャンプする。義足を手に入れると隘路を疾走し壁を上り格闘し逃走する。左足膝下がない設定の主人公がジェイソン・ボーン並みのハードアクションを見せるシーンは、そのCG技術に目を見張った。

爆発物処理に失敗したフォンは職場復帰を望むが果たせず失職する。数年後、ホテルで起きた爆弾テロの容疑者としてフォンが逮捕される。フォンは脳の記憶野に衝撃を受けていた。

警察がフォンから何も聞き出せずにいるとテロ組織が彼の身柄の奪還に来る。病院内の激しい銃撃戦では警官も負けじと発砲する。そのあたり、一般市民の命よりも治安維持を重視する中国共産党の考え方が香港にもすっかり浸透しているのに驚いた。その間フォンは逃亡、自らのアイデンティティを捜し続ける。ネット上では明らかにテロリストの仲間、だが元恋人の女警官の電話番号だけは指が覚えている。すべてを失った男が最後にすがった一本の電話が哀しかった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

高層ビルと国際空港を時間差で爆破するテロを察知した警察は、なんとかフォンの協力を得られないかと画策する。しかも空港への攻撃計画は、乗っ取った列車に核爆弾を積み込みそのまま突っ込ませて起爆させる前代未聞の大量破壊。大掛かりな爆発と銃撃戦、ド派手な映像は息つく間もなく次から次へと危機を演出する。ただ、そこにはCG感が半端なくあふれ、“偽の記憶を植え付ける” アイデアが色褪せていたのが残念だった。

監督     ハーマン・ヤウ
出演     アンディ・ラウ/ラウ・チンワン/ニー・ニー
ナンバー     72
オススメ度     ★★*


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とんび

職場でも居酒屋でも病院の廊下でも、気に入らないことがあるとすぐに突っかかり、けんかを始める男。根は正直で働き者なのだが、短気で損気、人情に厚くシャイなところもある。むき出しのぎょろ目で喚き散らす姿は、いかにも昭和の頑固オヤジという風情だ。物語は、気性の荒いトラック運転手の半生を息子の目を通して描く。妻は彼に似あわない穏やかな美女。事故死してしまったためにシングルファザーになってしまったが、田舎の小さな町では友人知人が時にガサツな彼の代わりになって子育てに手を貸す。隣近所も職場の同僚の家族もみな顔見知りというコミュニティの凝縮された人間関係が、古き良き時代の香りを濃厚に発散させていた。オート三輪から黒電話、白黒テレビやトースターといったディテール豊かに再現された小道具類に懐かしさを覚えた。

運送会社に勤務するヤスは、懸命に働きながらも、旭を溺愛しつつ育てている。ところが、旭は高校生になったころから、夜な夜な飲んだくれては己の価値観を押し付けるヤスを疎ましく思い始める。

父を知らずに育ったヤスは息子への接し方がよくわからず、自分の思い通りにならないと旭相手にもすぐに怒鳴りだす。野球部の後輩への “ケツバット事件” では、ヤスが身をもって旧弊を取り除こうとするが、そのやり方が結局暴力的で、ヤスらしくて笑ってしまった。一方で、旭は母の死因をよく覚えておらず、ヤスは旭に負担をかけまいと自分のせいで死んだことにしている。ヤスが見せるやさしさや思いやりはいかにも不器用だが、こんな男でも一戸建てを買えた高度成長期の日本人は本当に幸せに見えた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、あらゆる感情表現が大げさで押しつけがましい。TVのホームドラマならわかりやすい演技・演出も必要かつ有効だが、客がスクリーンに集中している映画にはまったく不要。そんな映像から放たれる圧倒的な熱量は、ヤスのキャラクター以上に生理的嫌悪感を抱いてしまった。あと、早稲田の合格電報は「イナホミノル」ではなかったか?

監督     瀬々敬久
出演     阿部寛/北村匠海/薬師丸ひろ子/杏/安田顕/大島優子/麻生久美子/麿赤兒/濱田岳
ナンバー     71
オススメ度     ★★


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ニワトリ☆フェニックス

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中途半端なまま大人になってしまった。もう若くないことに気づいてしまった。現実を直視するほどに未来には暗澹たる気持ちしか湧いてこない。物語は、うだつの上がらないまま中年にさしかかった男たち2人が、現実逃避のためにオープンカーに乗って旅をする姿を描く。気の向くままにハンドルを操り、適当なところで止める。一応、火の鳥を探すという名目はあるが、真剣なわけではない。それでも彼らが移動の途中で出会ったさまざまな奇人変人とのかかわりは、人生とは体験してみないとわからないことばかりであると教えてくれる。失うものは何もない。怖いもの見たさと好奇心、ワクワクしている自分たちが意外にまだまだイケると思えてくる。そんな彼らの、熱くはないけれど強い絆は、バカ話できる幼馴染との友情ほど尊いものはないと訴えていた。

農道で農夫ラッパーに絡まれたり、ビーチでハンバーガーを食べたりしながらドライブを楽しむ草太と楽人。夜になり怪しげなスナックに入ると、奇妙なショーを見せられた上泥酔する。

白塗りのギョロ目男とおかっぱ頭のおばば、ハチマキサングラスのオッサンの3人がカウンターの向こうにいるスナックで、草太と楽人は気まずい空気に耐えながらまずいつまみを食べさせられる。客なのに恐縮して、店員の機嫌を取っている。なのにお勘定を言い出せない。常連が来たかと思うと昼間のラッパー。楽しく飲むはずの酒がいつの間にか苦行の時間になっている。一見さんお断りの店に入ってしまったよそ者の居心地の悪さが非常にリアルに再現されていて、彼らが抱いたアウェイ感には共感できた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、映像に落書きを入れてみたり、オチのない思い出話に延々ふけったり、大した驚きもない伏線を張ったりと、薄い内容を無理に盛っている感は否めない。旅を通じて成長するわけでもないし、しみじみとした情感を得るわけでもない。脱力感こそがこの作品の魅力なのは理解できるのだが、笑いにまで昇華しきれておらず、中途半端な印象しか持てなかった。

監督     かなた狼
出演     井浦新/成田凌/紗羅マリー/LiLiCo/津田寛治/奥田瑛二/火野正平
ナンバー     70
オススメ度     ★★


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死刑にいたる病

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あんな男の言い分を信じていいのか。だが、落ちこぼれと見下してくる父親よりは、自分のことを理解してくれる。物語は、死刑判決を受けた連続殺人犯から冤罪を証明してくれと依頼された青年の葛藤を描く。被害者は決まったルーティンによって拉致・拷問の末に殺されているのに、1件だけは明らかに手口が違っている。警察も検察もそこを吟味せず、ついでに死刑囚に罪をかぶせているようにも感じる。青年はあらゆる調書や裁判記録を調べ、もう一度現場を検証し証人を直撃する。もしかしたら殺されていたかもしれない。家族にも秘密を抱えた者がいる。真犯人は野放しでいいのか。知るのが恐ろしい、だがもう引き返せない。死刑囚は青年の迷走を楽しんでいるかのよう。そんな状況で、主人公が少しずつ自信をみなぎらせていく過程が頼もしい。

榛原から手紙をもらった雅也は拘置所まで面会に行く。榛原の話術にすっかりペースを奪われた雅也は、弁護士事務所のアルバイト職員となって、事件をもう一度精査する。

榛原とはガラス越しにしか話せないのに、いつの間にか彼のペースにすっかりのせられる雅也。声は明朗、気遣いを忘れないやさしさと理路整然とした話し方に時折ユーモアすらにじませる。雅也の心に入り込み、雅也が選択したと思い込ませる。いつしか雅也は榛原が望むような答えばかりを収集し、それが真実のように思えてくる。人は共感してくれる人を信頼する、会話だけで相手を意のままに操縦する榛原の知能の高さと良心の欠如が人間の多面性を象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

調査を進めるうちに、雅也は拘置所の待合室で声をかけてきた長髪の男が榛原と因縁があることを突き止める。さらに母にも問い詰める。だがそれは榛原にとっては想定通り。嘘はついていない、情報を小出しにしているだけ。いつしか雅也は己の体には凶暴な血が流れているのではと思い始める。他人の思考を言葉だけで自在に操り、己の残酷に歪んだ趣味嗜好を満たす榛原の瞳に宿る狂気は、ハンニバルに匹敵する光を放っていた。

監督     白石和彌
出演     阿部サダヲ/岡田健史/岩田剛典/宮崎優/佐藤玲/中山美穂
ナンバー     51
オススメ度     ★★★*


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https://siy-movie.com/

ヒットマンズ・ワイフズ・ボディガード

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銃弾の雨にさらされても大型SUVに追跡されても決して引き金には指をかけない。不殺の誓いを自らに課した男は、その頭脳と肉体を武器に世界を破滅に導く巨大な陰謀に立ち向かう。物語は、腕利き警備員と殺し屋、殺し屋の妻がヨーロッパ全域を担う電源設備を狙ったテロ組織と戦う姿を描く。テロ組織の首魁はEUから経済制裁を受けたギリシアの有力者。地中海文明の起源であるギリシアに対する非礼な振る舞いに腹を立てている。今やインフラを破壊し生活を混乱させるのに爆弾や武器は必要ない。電力を管理するシステムをウイルスに感染させるだけで、社会は崩壊する。コンピューターのネットワークに支配された現代社会のセキュリティがいかに脆弱なものであるかを、このテロリストたちは教えてくれる。

女詐欺師のソニアから彼女の夫・ダリウスを救出してくれと頼まれたマイケルは、ギャングのアジトに乗り込む。無事ダリウスを救出するがボスを殺してしまい、3人はボスの代理人に指名される。

銃口を向けてくる者にはためらいなく銃弾をぶち込むソニアとダリウス。セラピーのおかげで銃を持てないマイケルは、仕方なく相手が死なない程度にぶちのめす。血なまぐさい世界で生きてきたのに、流血を忌避しているマイケル。身に起きたことを逐一自分の留守電に吹き込んで記録に残すなど、セラピストのアドバイスを守って精神的な脆さを克服しようとしている。超人的な身体能力を持っていても心はガラスのよう。そんな強さと弱さを併せ持つマイケルに対し、ソニアはひとりイケイケ調で突っ走る。その対比がジェンダーフリーを象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、銃撃戦は派手な割には単調で描き方が雑。血しぶきは飛ぶけれどアクションにキレがなくシューティングゲームのようだ。カーチェイスで超絶技術を見せてくれるわけでもなく、追手が次々と自滅していくばかり。もっと、登場人物の視点に立って彼らが味わうスリルやスピード感を体感させてほしかった。この映画のテイストにはまったく馴染めなかった。

監督     パトリック・ヒューズ
出演     ライアン・レイノルズ/サミュエル・L・ジャクソン/ サルマ・ハエック/アントニオ・バンデラス/モーガン・フリーマン/フランク・グリロ
ナンバー     69
オススメ度     ★★


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hitmanswifesbodyguard

ふたつの部屋、ふたりの暮らし

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世界はふたりだけのもの。そう思っているかのように彼女たちは視線を絡ませ唇を重ね体を寄せ合ってステップを踏む。誰よりも信頼できる相手との至福のひと時に身をゆだねる姿はどこか物悲しい。物語は、老境を迎えたレズビアンカップルの愛を描く。アパートの同じ階でずっと暮らしていた。部屋は別だから、仲のいいご近所さんを装って隠しおおせていた。だが、片方が要介護状態になったとき、ふたりを取り巻く状況が決定的に変わる。脳機能の低下で話せない。顔からは喜怒哀楽が消える。さらに息子と娘の無理解がふたりの仲を引き裂いていく。性的な多様性は認めつつも、いざ自分の母親が同性愛者だと知った息子と娘は強烈な拒否反応を起こす。やはり肉親が同性愛の当事者になると冷静ではいられない、そんな彼らの反応がリアルだった。

ニナとマドはお互いの部屋を行き来する恋人同士で、近々アパートを売ってローマで余生を過ごす計画を立てている。ところが、マドが脳梗塞で倒れ、一命は取り留めたものの重篤な障害が残る。

退院したマドは自室に戻るが、介護士が24時間張り付いている。ニナは、深夜に合いカギでマドの寝室に忍び込んだりする。マドは、顔の筋肉をまったく動かせないため意思表示ができず自由が奪われていく。彼女の気持ちを知るニナはなんとか近づこうとするが、かえって疎ましがられる。だが、マドはしゃべれないけれど意識があり、言葉は聞こえている。ニナや介護士、娘や息子の会話を耳にすると、マドは目玉の動きだけで感情を表現するが、彼女の思いはニナにだけ届いている。なのに、ニナとマドの意思を無視して事態はどんどん進んでいく。無力感にさいなまれながらも育てた愛をつなげようとするふたりの心が切ない。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

マドは娘たちによって老人ホームに収容される。もうお互い以外何もいらないというふたりの思いが娘にも伝わるシーンは、幸福とは何かを教えてくれる。前半、決して美しいとは思えなかった老女同士の恋は、いつしか至高の輝きを放っていた。

監督     フィリッポ・メネゲッティ
出演     バルバラ・スコバ/マルティーヌ・シュバリエ/レア・ドリュッケール/ミュリエル・ベナゼラフ/ジェローム・バレンフラン
ナンバー     68
オススメ度     ★★★★


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https://deux-movie.com/

親愛なる同志たちへ

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長い行列に並ばなくても食料や雑貨は優先的に手に入る。快適なアパートにも住んでいられる。だが、最近の物価高・物資不足にはうんざりしている。物語は、ソ連時代の地方都市で起きた暴動の当事者となったシングルマザーの奔走を描く。享受している豊かさは手放したくない。だから、気を許した相手には指導者への愚痴をこぼすのに、一般市民が彼を批判するのは許さない。さらにストライキに加わった者は全員逮捕と主張し、体制側を強く支持する。ところが、一人娘がデモに参加していたことを知ると、その発言がそのまま大きな皮肉となって己に返ってくる。もはや地位や特権などどうでもいい、彼女がエリート臭漂う共産党員からわが子を心配する普通の母親に変わっていく過程は、母性本能はイデオロギーを超越すると訴える。

賃下げ反対のストに入った工場労働者たち。治安維持のために軍隊が配備されるが、管理職のリューダは強硬策を提案する。ところが、市民のデモ行進に彼女の娘も参加していた。

労働者は暴徒化し、共産党員でもある工場幹部たちは狭い地下道から脱出せざるを得ない。その時リューダが見かけた狙撃銃を持った男。軍隊は空砲を空に向かって撃っているだけなのに、狙撃手はデモ隊をひとりまたひとりと仕留めていく。リューダの目の前で知人が次々と血祭りにあげられていくシーンは、体制への反逆は絶対に許さないという共産党の意図が透けて見える。さらに情報統制するために全市民に守秘を誓約させる念の入れよう。このあたり、民主主義を抑圧する強権国家の真実が浮き彫りにされていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

リューダは行方不明になった娘を捜す。KGBが娘について質問に来る。もう娘は死んでいるかもしれない。それでも自分の目で確認し、遺体を回収したい。そう願う彼女の気持ちを察したKGBの男は娘捜しに協力する。彼もまた体制に疑問を抱いているのだろう、立場上口にはできず、リューダを手伝うことで罪悪感を消している。こんな世界でも、人情は残っていることに少し救われた。

監督     アンドレイ・コンチャロフスキー
出演     ユリア・ヴィソツカヤ/ウラジスラフ・コマロフ/ アンドレイ・グセフ
ナンバー     67
オススメ度     ★★★


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https://shinai-doshi.com/