こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

人質 韓国トップスター誘拐事件

泥酔して帰宅途中、3人組に拉致された。解放してもらうために莫大な身代金を要求される。だが、家族は留守で、カネは直接銀行から引き出さなければならない。物語は、誘拐された映画スターが犯罪者グループのアジトから脱出しようと奮闘する姿を描く。人質はもうひとりいる。見張り役の男女は気が小さいが虚勢を張っている。主犯格の男は狡猾かつ大胆で子分たちを支配している。人里離れた小さな倉庫、叫んでも誰も助けてくれない。自分だけなら何とかなるが、傷ついた娘を放ってはおけない。タイムリミットは刻々と迫ってくるが、打開策は見つからない。やがて警察が察知するが犯人は予想を裏切る行動を取る。相手は殺人をいとわない狂気の集団、虚構の中で生きてきた俳優が痛みを伴う “現実” を体験するシーンは息詰まる緊張感に満ちていた。

椅子に縛り付けられたファン・ジョンミンは、身代金を渋った男が惨殺される動画を見せられ支払いに同意する。主犯格のギワンはファンのパスワードカードを取りに行くが、刑事に声をかけられる。

すんでのところで子分に救われたギワンはそのまま奪ったタクシーで逃走、刑事たちもパトカーで追跡する。入り組んだ狭い路地で並走し、バンパーをぶつけ合い、後進してきたクルマを跳ね飛ばし、歩行者をたじろがせながら爆走するギワンのクルマ。大通りに出ても蛇行や信号無視を繰り返し、パトカーを振り払おうとする。スピーディかつスリリングなカースタントは当事者が知覚するあらゆる感覚がリアルに再現され、息をのみ瞬きを忘れてしまった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

もともとギワンたちはきちんと計画を練っていない。むしろ、犯人グループで冷静に考えて行動できるのはギワンひとりで、見張りのハゲ男はいつの間にかファンの説得に心が動いている。他の子分も粗暴なだけでまともな判断力はない。まさしく社会から落ちこぼれた男女の集団で、成功して金持ちになったファンを憎悪している。そこには、負け組は犯罪者になるしかない韓国社会の深刻な格差が浮き彫りにされていた。

監督     ピル・カムソン
出演     ファン・ジョンミン/キム・ジェボム/イ・ユミ/リュ・ギョンス/チョン・ジェウォン/イ・ギュウォン/イ・ホジョン
ナンバー     168
オススメ度     ★★*


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地下室のヘンな穴 

地下室の穴に入ると、なぜか2階の部屋に出る。いつの間にか12時間経っている。肉体は3日若返っているという。物語は、奇妙な構造を持つ新居に引っ越した夫婦が直面する危機を描く。しわやたるみのない顔とメリハリのあるボディを取り戻せば、モデルになるという若いころの夢をかなえられるかもしれない。そう確信した妻は、毎日のように穴を通過しては美しくなっていく。一方の夫は、そのたびに12時間放っておかれ内心穏やかではない。さらに仕事でのトラブルも抱えいら立ちは募っていく。神の摂理に逆らうような欲望は封印すべきか、それとも手にした奇跡は最大限活用すべきか。夫婦は逆の道を選ぶが、それでもなるべくお互い相手の意見を尊重しようとするところが、個人主義の発達したフランス人らしかった。

アランとマリーはローンを組んで郊外の瀟洒な一軒家を買う。マリーはさっそく穴の効果を実感、張りのある肉体と美貌を取り戻したいと願うが、アランは彼女を冷めた目で見ている。

アランの友人で社長でもあるジェラールは、引っ越し祝いの席で電子ペニスを装着したと打ち明ける。彼もまた滾るようなパワーを切望したのだろう。魅力的な妻・ジャンヌの期待にも応えたい。経済的には恵まれていても性的能力は下がるばかりの年齢になって、彼もまた “こんなはずじゃなかった” と自身の老いを呪い若さの魔力を追う。マリーとジェラール、男女の違いはあっても肉体的・精神的な健全さは人類共有の願望でもある。だがそれが、果たして彼らの人生に幸せをもたらすのかとこの作品は疑問を投げかける。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

科学的は説明できない穴に救いを求めたマリーとテクノロジーを頼ったジェラール。当然2人は代償を払うことになるが、彼らが後悔しているようには見えない。2人とも50代と推察される。ならばこのまま老いを受け入れて衰えていくばかりの未来よりも、一瞬でも、もう一度輝かしい時間を取り戻したいと思うのは当然だろう。魔法の穴はさておき、肉体のデジタル化は可能な気がする。

監督     カンタン・デュピュー
出演     アラン・シャバ/レア・ドリュッケール/ブノワ・マジメル/アナイス・ドゥムースティエ
ナンバー     166
オススメ度     ★★★


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さかなのこ

ハコフグの帽子をかぶって街に出没する男は、地元では変人扱いされている。彼は、小学生を自宅に招き夜まで一緒に遊んでいたのが警察沙汰になりパトカーで連行されていく。その背中には、地方の小さなコミュニティで孤立した男の生きづらさが凝縮されていた。物語は、お魚博士になると決めた主人公の成長過程を追う。家でも学校でも頭の中は魚のことでいっぱい。あふれるイマジネーションをイラストにすると好評になる。一方で、思考回路が “お魚” 中心に回っているために他人とのコミュニケーションがうまく取れない。絡んできた不良たちに一歩も引かず持論を展開させ逆に不良たちを納得させるシーンは、話のかみ合わないコントのようで非常に楽しめた。強烈な思い込みは、時として周囲を変える可能性を持つとその姿に教えられた。

水族館のタコに夢中になったミー坊は、魚類図鑑を愛読するうちに魚が大好きになる。高校は底辺校だったが、特異なキャラで総長やヒヨといった不良たちとも心を通わせるようになる。

ミー坊の言動に一切否定的な態度を示さず好きにさせる母親の育て方が素晴らしい。ギョギョおじさん事件後離婚してミー坊を引き取ったようだが、ミー坊が不自由さを感じないように全力を尽くしている。高校卒業後は魚に関連する仕事に就こうとするミー坊だが、魚を釣ったり観察したり調理したりするのは得意で何時間でも集中できるのに、他人に命令されると途端に散漫になり、何をしても長続きせず職を転々とする。それでも、お魚博士になる夢はあきらめていない。ヒヨの恋人に笑われるなど、ある種のパーソナリティ障害のように描かれているが、本人は気にしておらずむしろ個性と肯定的にとらえているあたり心地よい。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、ミー坊の生き方を美化しすぎていて、コメディとしても間が悪い。最終的には夢をかなえるのだが、そこに至るまでの苦悩や葛藤も再現してほしかった。さかなクンというユニークな存在がいかに稀有で偉大であるかという事実だけは理解できたが。

監督     沖田修一
出演     のん/柳楽優弥/夏帆/磯村勇斗/岡山天音/井川遥/さかなクン/西村瑞季/宇野祥平/豊原功補/中須翔真
ナンバー     167
オススメ度     ★★*


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http://sakananoko.jp/

デリシュ!

小麦粉を捏ねて型に入れ、きれいに整えて、丹精込めて焼き上げた菓子。料理人にとってそれは絶対の自信作なのに、貴族たちからは嘲笑され侮辱され謝罪を求められる。物語は、革命の足音が聞こえ始めたフランス、公爵の専属料理人だった男が街道の旅籠でレストランを開業する姿を描く。まだカネを払って外食する習慣のない時代、料理を芸術の域にまで高めた彼は、庶民にも手ごろな値段で上質な料理を味わってもらおうとする。進取の気性に富んだ息子と訳アリ中年女の手伝いもあって、彼らのアイデアは徐々に周囲に浸透していく。地元でとれた野菜や卵、野生のウサギやカモといった食材を丁寧に処理し時間をかけて火を通す過程は、よだれがたまるほど。貴族と平民の経済的格差のみならず圧倒的なまでの身分差が講評シーンに凝縮されていた。

じゃがいもとトリュフをメニューに加えたせいで公爵家をクビになったマンスロンは実家に戻る。押しかけ弟子として現れたルイーズに料理を教えるうちに、料理への意欲を取り戻す。

手がきれいなうえ立ち居振る舞いに気品があるルイーズは高級娼婦だったという。彼女は、マンスロンの期待に応えようとよく働く上、味覚のセンスもいい。若くはないが結構美人でもある。それでも、マンスロンがセクハラに及ぶと毅然とした態度で拒絶する。客からも、女だというだけでからかわれたりもするが、決して媚びたりはしない。ルイーズのプライドの高さが、マンスロンや息子のレストラン経営への意欲を刺激するあたり、女に尊敬されたいと願う男の気持ちがリアルに再現されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

評判を耳にした公爵が料理を食べにくるというので、マンスロンは徹夜で準備する。ところが、ひと悶着あった後も事件が重なり、ルイーズはマンスロンの元を去る。そして入念に計画された食事会。王侯貴族の専横に庶民階級がため込んだ怒りが沸点に達する。扇動者などいらない、市民革命は小さなきっかけで始まり、大きなうねりとなってこそ成功すると、この作品は当時の空気を伝えてくれる。

監督     エリック・ベナール
出演     グレゴリー・ガドゥボワ/イザベル・カレ/バンジャマン・ラベルネ/ギョーム・デュ・トンケデック
ナンバー     165
オススメ度     ★★★


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https://delicieux.ayapro.ne.jp/

この子は邪悪

意識不明の重体だった母が突然元気になって病院から帰ってきた。父も妹も大喜びしているが、長女だけは強烈な違和感を覚えている。物語は、心療内科医の長女が体験する恐怖を描く。仲の良い家族のはずだった。父はいつも優しく話しかけてくれる。母も以前のようにおいしい料理を作ってくれる。白い仮面で顔のやけどを隠している妹も、明るく成長している。なのにやっぱり腑に落ちない。知らないところで途轍もないことが起きている。父の秘密を暴かなければならない。そんな時知り合った少年とは何でも話せる関係になった。彼もまた異常を抱えた母を持ち、母の症状に何らかの事件性を疑っている。そして明らかになっていく驚愕の真実。すべては家族のためと言って己の狂気を正当化する医師が持つベルの音がいつまでも耳に残る。

魂が抜けたような母と暮らす純は、わが子を虐待した親たちが同じような症状になっていると気づき、証拠を集めている。その原因と当たりを付けたくぼ心療内科で、長女の花と出会う。

交通事故以来、花も妹のルナも家にこもりっきりで、淳は花にとって外の世界とつながる唯一の糸。だが純は花の母が偽物だと気づき、花も母の目元のほくろが不自然なのを見抜く。さらにルナについての記事がネットに上がっていたためルナのアイデンティティにさえ疑いを向けざるを得なくなる。まずい状況になった母とルナが目を大きく見開いて目玉をランダムに動かすシーンは、他人の心を操る邪悪な存在に自分の心の奥底までのぞき込まれるようなおぞましさに満ちていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

医院長の窪は催眠術を用いて患者の心を操っている。その強弱は患者によって使い分け、時に退行催眠を用いてすべての記憶に蓋をしたり新たな記憶を植え付けたりする。ただ、「魂を抜く」までは可能かもしれないが、別人の記憶や感情、後天的に身に着けた技能まで移植するのはさすがに説得力がない。幼い妹ならまだしも、もう大人になっている母親には、いくら強烈な愛があっても難しいのではないだろうか。

監督     片岡翔
出演     南沙良/大西流星/桜井ユキ/渡辺さくら/玉木宏
ナンバー     164
オススメ度     ★★*


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https://happinet-phantom.com/konokohajyaaku/

Zola ゾラ

知り合って間もない女に誘われた。意気投合したから信じていた。だが、ヒロインが連れていかれた先はとんでもない場所だった。物語は、ウエイトレスのバイト中に客の白人女から声をかけられた黒人ポールダンサーが、ショーの仕事と思って巡業に行った先で売春を強要されそうになる姿を描く。ダンサー同士で馬が合った。運転手はギャングだった。なぜか白人女のボーイフレンドがついてくる。状況よくわからないまま南国のリゾート地に向かった彼女は、あまりの展開の速さに理解がついていかない。それでも、いやなことはきっぱりと断り、脅されても窮地を抜け出すアイデアを絞り出す。命の危険にさらされても決してパニックにならず、かといって感情を爆発させることもない。あまり細密ではない映像が、かえってロードムービー的な味わいを醸し出していた。

一緒に出稼ぎに行こうというメッセージを受け取ったゾラは、ステファニと彼女の恋人・デレク、運転手のXと共にフロリダに向かう。だが、現地に着くとデレクとXの態度が豹変する。

デレクは頭が悪いのか、Xに怒鳴られパシリ扱いされているが、ステファニとは愛し合っているようで何度もお互いの気持ちを確かめ合っている。4人は町はずれの薄汚れたモーテルにチェックインすると、さっそくステファニとゾラはショーパブの舞台に上がりチップを稼ぐ。このあたり、契約など一切かわさず、初めていく店で店主や初対面の他のダンサーたちともトラブルを起こさず仕事を終える。この業界が裏社会に通じている分、相手の信頼を裏切るとそれなりの制裁を受けるということだろうか。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後、Xはステファニとゾラに高級ホテルのスイートで客を取れと命令する。話が違うとゾラが抗議してもXは聞く耳を持たない。仕方なくゾラは従うが、ステファニの値段を知ってもっと高く売れる方法を考え、案内係に徹するだけでXが想定していたよりもはるかに高いもうけを出す。ただ、8000ドル稼ぐには20人近い男を相手にしなければならないが、一晩で可能なのか?

監督     ジャニクザ・ブラボー
出演     テイラー・ペイジ/ライリー・キーオ/ニコラス・ブラウン/アリエル・スタッチェル/コールマン・ドミンゴ
ナンバー     163
オススメ度     ★★*


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https://transformer.co.jp/m/zola/

ブレット・トレイン

ブリーフケースを盗むだけの簡単な仕事のはずだったのに。次の停車駅で降りれば完了のはずだったのに。なぜか次から次へと刺客が現れ命を狙われる。物語は、新幹線車中での仕事を請け負った殺し屋が遭遇する災難を描く。暗殺指令ではないので銃は使いたくない。その場にある物や相手の武器を奪って応戦する。とりあえず全員が敵と思っていたほうがよさそうだ。過去に因縁がある者がいる。目的が一致して協力できそうな者もいる。一方で、顔が知られておらず殺し屋の雰囲気を完全に消している者もいる。思い込みと誤解、勘違いと人違い、そして裏切りと復讐。サイケリックに誇張された日本の風景を西に向かってひた走る列車で、何をどうすべきかわからないまま主人公が奮闘する姿はコミカルで、テンションはあくまでも高かった。

東京駅から新幹線に乗ったレディバグはタンジェリンとレモンが運ぶ大金入りのスーツケースを盗む。新横浜で降車しようとするが、巨漢の殺し屋・ウルフの襲撃を受ける。

タンジェリンとレモンは闇社会のボス・ホワイトデスの息子とカネを京都まで運ぶミッションを受けており、当然レディバードを追う。だが、スーツケースはプリンスという女が横取り、さらに息子が殺される。失態を回復すべくタンジェリンとレモンは列車内を駆け巡るが、解決の糸口はレディバグだけ。数人の殺し屋がそれぞれの思惑を隠し持ち、笑顔で近づいてきてはいきなり牙をむく。誰もが全体像を把握しないまま不安に駆られお互いを敵視している。失敗イコール死という現実には目を向けず己の勝利を確信している殺し屋たちのポジティブな緊張感が心地よかった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、レディバグをはじめ個性的な殺し屋たちはみなタランティーノの映画に出てきそうなキャラクターばかりで、斬新さはない。格闘シーンや殺害方法、爆走する列車の外でのアクションも、リアルさよりもファンタジックさばかりを追い、この作品の世界観に入っていけなかった。新幹線に多くの外国人が戻ってくる日は待ち遠しいが。。。

監督     デビッド・リーチ
出演     ブラッド・ピット/ジョーイ・キング/アーロン・テイラー=ジョンソン/ブライアン・タイリー・ヘンリー/アンドリュー・小路/真田広之/マイケル・シャノン/サンドラ・ブロック
ナンバー     162
オススメ度     ★★*


↓公式サイト↓
https://www.bullettrain-movie.jp/