こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アンブッシュ 

渓谷の狭い道で待ち伏せにあった。切り立った崖に姿を隠した敵は、銃弾砲弾を容赦なく撃ち込んでくる。後続車は地雷を踏んで足止めを食い、戦闘ヘリが来るまでは自力で持ちこたえなければならない。物語は、武装勢力に破壊された村に救援物資を運ぶ外国部隊の奮闘を描く。厚い装甲で守られた軍用車両でも、数発の被弾で動きが取れなくなる。仲間の車両も火の車にされた。投降してもなぶり殺しにされるだけ。ならば最後まで闘うと決めた3人の兵士は、圧倒的な数的不利にもかかわらず、少ない弾薬で応戦する。一方で異変を察した司令部は空陸双方から救援部隊を送り込もうとするが、時間との戦いを強いられる。自動小銃迫撃砲・ロケット弾といった20世紀の装備&山賊のようないでたちの反政府ゲリラと、ドローンなど近代兵器を駆使する少数精鋭の正規軍が対照的だ。

内戦中のイエメンに駐留するUAE部隊のアリ、ビライ、ヒンダシの3人は、パトロール中にフーシ派ゲリラの襲撃を受ける。重傷を負ったヒンダシを守るためにアリとビライは応戦する。

狂信的なリーダーの元、フーシ派軍は士気が高い。UAE部隊はもうすぐ除隊でこれが最後の任務。特にアリは幼い娘との再会を楽しみにしている。UAE車両は数度にわたるRPGの攻撃で動けなくなり機関銃も破壊され、完全に包囲されてしまう。一歩車両の外に出ると狙撃手が引き金を引く。絶体絶命の危機、それでも絶対に生きて帰るという固い意志で彼らは絶望的な状況を打開しようとする。UAE軍に比べ人海戦術をとるゲリラ兵たちの命が射的の的のようにあっけなく奪われていくのが印象的だった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて戦闘ヘリが到着すると、圧倒的な火力でゲリラと彼らの迫撃砲を破壊していく。パイロットは女のような声、イスラム圏の軍隊でも女性士官が最前線で命を張っているのが意外だった。ただ映像の構成や表現は数多のハリウッド映画の模倣の域を出ておらず、もっとアラブ的な特色が見たかった。まあ、西側友好国の軍隊はみな米軍を手本にしているから仕方ないが。

監督     ピエール・モレル
出演     マルワーン・アブドゥッラ・サーリフ/ハリーファ・アル・ジャースィム/ムハンマド・アフマド/アブドゥッラ・サイード・ビン・ハイダルア/マンスールアルフィー
ナンバー     1
オススメ度     ★★*


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宝くじの不時着 1等当選くじが飛んでいきました

偶然拾った宝くじが1等に当選していた。気持ちが浮つきなにもかも手がつかなくなった。でも油断していたら風に吹かれて国境の向こうまで飛んでいった。そこは地雷原を挟んだ敵対国。物語は、宝くじを取り戻したい韓国軍兵士と換金したい北朝鮮軍兵士が大金を手に入れようと奔走する姿を描く。くじの所有権をめぐってひと悶着あったあと、お互いに協力しなければ何も得られないと気づいた双方は信用を担保するために人質をひとりずつ差し出す。人質を生きて返すには保護が必要、自然と相手を理解しようと努め、欲から生まれた人間関係はいつしか友情に変わっていく。同じ言語の同胞が体制の違いだけで憎しみ合うバカバカしさをコミカルに再現し、にらみ合いも70年続くと日常となり実は現状維持こそが安定という朝鮮半島の現実を強烈に皮肉っていた。

韓国軍国境警備兵のチョヌは宝くじを探しに非武装地帯に侵入、宝くじを拾った北の兵士・ヨンホと出会う。双方士官と仲間を連れ、後日秘密の給水所で3対3の会談が開かれる。

南北とも相手が飲めないような条件を主張し合うが、実は落としどころを探っている。強がっていてもどこかで妥協しなければ、皮算用が泡と消える。偶然現れた仲介者の提案で合意が成立するが、その後酒盛りをするともはや兵士ではなく普通の人間として相手を認め合う。北の情報担当官がK-POPダンスを披露すると6人全員がノリノリになって踊り出すシーンは、自由を求める気持ちはイデオロギーでは変えられないことを象徴する。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

人質として、チョヌは北の、ヨンホは南の新兵としてそれぞれの部隊に潜り込む。ところが2人とも思わぬ手柄を立ててしまい英雄扱いされる。正体がバレると命のない2人が解決策を模索するシーンはそれぞれギリギリの緊張感の中にユーモアを挟み、つい笑いを漏らしてしまった。換金役の兵士がソウル市内で変態扱いされどこまでもSNSで追跡されるが、今や韓国は北朝鮮以上にプライバシーのない相互監視社会になっているということなのか。。。

監督     パク・ギュテ
出演     コ・ギョンピョ/イ・イギョン/ウム・ムンソク/パク・セワン/クァク・ドンヨン/イ・スンウォン/キム・ミンホ
ナンバー     236
オススメ度     ★★★*


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雪山の絆

食べなければ命が持たない。食べるのは倫理にも信仰にも反する。生き残ることを最優先に選んだ彼らは禁断の肉を口にする。物語は、高山地帯で不時着に失敗した旅客機内で助かった人々のサバイバルを描く。乱気流でバランスを失った機体は尾翼部分を失う。地面との激突でさらに機体後部は粉々になり、機体前部で胴体着陸する。衝撃でシートは吹き飛び、四肢を挟まれた乗客は苦痛にうめく。かろうじて無傷・軽傷で済んだ人々も遮るものがない氷点下の雪山で凍えながら一夜を過ごす。だが、早々と捜索は打ち切られる。あっさり死んだ方がよほど安らかだったと思わせるその後の地獄は、人間としての尊厳を破ることへの禁忌も選択肢のない状態では正当化されると訴える。苦悩や葛藤があっても、結局は環境に慣れてしまうのだ。

ウルグアイラグビーチームと関係者を乗せチリに向かったプロペラ機がアンデス山中に墜落する。乗客の半分以上は助かるが、救援はなく早々と食料が尽きる。

最初のうちはすぐに救助されると思っていた彼らも、春まで自力で耐えなければならないと知ると、その状況を受け入れるしかない。雪を融かせば水は何とかなるが、飢餓状態で徐々に体力が奪われると仲間の遺体を食べるしかない。燃料はなく、解体し一口大にスライスされた肉をかみしめる。その瞬間、とんだもない過ちを犯していると思いながらも、疲弊した体にエナジーがみなぎるのも感じている。そしてその食事は彼らの日常となっていく。遺体の数が減り、骨にこびりついた肉までこそげ取って食べる彼らの姿は、生命力こそ希望の源であると教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

初夏になり山肌が見え始めると、救援を求める捜索隊を出発させる。装備も乏しいまま、ただ座して死を待つよりはとまだ雪が残る山道に踏み出すのだ。山頂から見える絶景は、一方で行く手を阻む大きな壁でもある。それでも、生きることを選んだ彼らは決してあきらめない。人間の精神と肉体はこれほどまでに強靭で崇高なのかと考えさせられる作品だった。

監督     J・A・バヨナ
出演     エンゾ・ボグリンシク/アグスティン・パルデッラ/マティアス・レカルト/エステバン・ビリャルディ/ディエゴ・ベゲッツィ/フェルナンド・コンティヒアニ・ガルシア
ナンバー     235
オススメ度     ★★★


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きっと、それは愛じゃない

仕事はまずまず、恋愛もほどほど。気ままな独身生活を謳歌してきた彼女は、幼馴染の結婚を機に人生で一番大切なものは何かを考え始める。物語は、見合い結婚する友人のドキュメンタリー映画を撮るヒロインが、彼らの価値観を理解していくうちに自分の本心に気づく過程を描く。リベラルな教育を受けてきたロンドンの白人女と移民3世のモスレムの男。親友として付き合ってきたが異性としてはお互いに意識したことはない。男はモスレムの慣習に従い両親が選んだ相手と婚約、花嫁とは結婚式当日に初めて会う。彼は、愛は結婚してから育てればいいという。結婚は恋愛の延長上にあると考えるヒロインは強烈な違和感を覚えつつもカメラを回し続ける。異文化に敬意を示してはいるが西欧的民主主義に回帰する彼女の言動は、多様性を受け入れる難しさを考えさせてくれる。

かつて隣人だったカズの婚活に密着するゾーイは両親主導で進む彼らの縁談を逐一カメラに収めるが、モスレムにとって結婚は家族同士の結びつきであることを理解できない。

個人は家族という共同体の一員という考え方は安定をもたらす一方で拘束もする。家名を汚さないために良き息子を演じてきたカズをゾーイは非難するが、彼女は逆にカズから奔放な生活態度を指摘され言葉に詰まる。どちらが正しいのかは誰にもわからない。ただ、己の選択に後悔しないように生きていくだけ。ふたりの間に微妙な亀裂が入るが、それはむしろスパイスとなって、心に正直になることこそが最善という答えを導き出していく。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

カズ一家は教育レベルも高く理性的。だが、ロンドンの白人たちにとってやはりモスレムはどこかで異物として認識されている。それは彼らの閉鎖性からきているのだろうが、白人たちの根っこにある “自国が異教徒に乗っ取られるのではないか” という恐怖も想像できる。宗教的文化的人種的バックグラウンドなど関係なしに自由と平等と豊かな暮らしが享受できる社会という左翼リベラルの理想が実現するほど、現実は甘くないのだ。

監督     シェカール・カプール
出演     リリー・ジェームズ/シャザト・ラティフ/エマ・トンプソン/シャバナ・アズミ/サジャル・アリー/オリバー・クリス
ナンバー     234
オススメ度     ★★★


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https://wl-movie.jp/

TALK TO ME トーク・トゥ・ミー

イムリミットは90秒、それ以上憑依され続けると霊に肉体を乗っ取られる。物語は、降霊会に参加した高校生たちがたどる悲劇を追う。手の形をしたオブジェを握り呪文を唱えると死者の霊が体内に入ってくる。目を剥き体をエビ反らせ口から泡を吹きながらも、一度生死のはざまを越えるスリルと解放感を覚えると、若者たちは次第に大胆になっていく。安らかな死や納得できる死を迎えられた者の魂はあの世に行くが、悲惨な死や未練を残して死んだ者は魂を悪霊に変えこの世にとどまる。それを知らずに興味本位とその場のノリで危険な行為に突き進む若者の未熟さと無鉄砲さは、SNSが発達した時代でも変わらない。心配性の親世代に反抗しても、グレて犯罪行為に走ったりせず一般的な良識は持っている。そんな、現代の高校生気質がリアルに再現されていた。

友人が主催する降霊会の被験者になったミアは特異な感覚に興奮する。親友・ジェイドの弟・ライリーも憑依体験に志願するが、彼に憑依したのはミアの母の霊だった。

まだ子供ということで、ライリーの制限時間は50秒に設定されている、母の霊ともっと話したいミアは制限時間を過ぎても除霊させない。その結果、ライリーは激しい自傷行為を繰り返し、心も体もボロボロになってしまう。ミアも除霊したはずの女の霊に付きまとわれ、幻覚に悩まされるようになる。彼らの異常な症状は呼び出した霊の邪念によるものなのか、90秒規制を破ったから起きたのかは不明だ。ただ、死者の思いを弄ぶのは慎むべきとわかっていてもやってしまうのが人間の弱さ。もっと恐ろしい目に遭うまで、自分の命が奪われるまで何度も試す。好奇心は時に災厄を招くのだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

病院に運ばれたヘイリーは覚醒すると手が付けられなくなり、ミアの妄想もエスカレートする。もはや生きた人間では解決できない。さらに死者との交信を増やして解決策を図ろうとするが、悪循環を繰り返すだけ。米国製ホラーほど血なまぐさくないが、恐怖と不安が心の隙間に忍び寄るような演出が冴えていた。

監督     ダニー・フィリッポウ/マイケル・フィリッポウ
出演     ソフィー・ワイルド/アレクサンドラ・ジェンセン/ジョー・バード/オーティス・ダンジ/ミランダ・オットー/ゾーイ・テラケス/マーカス・ジョンソン
ナンバー     233
オススメ度     ★★★


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https://gaga.ne.jp/talktome/

ファースト・カウ

表面はカリカリだが中は柔らかな歯ごたえ、口に広がる甘くまろやかな味わいはたちまち舌を虜にする。ところが、それには禁断の材料が使われていた。物語は、米国西部の開拓地でドーナツ屋を始めた白人と中国人コンビの夢と欲望を描く。食べ物は乏しく腹が満たされればOKという時代、小麦粉を牛乳で練ることで懐かしい味覚を刺激する。人々は長蛇の列を作り、ドーナツを口にするためには散財をためらわない。だが、まだまだ牛乳は貴重品、彼らは集落に1頭しかいな牝牛の乳を夜な夜な盗んでいる。ほどなくひと財産築くが、そろそろ潮時と思う白人に対し、もっと稼げると中国人は言う。掘っ立て小屋に住み銀貨か物々交換で必要なものを手に入れる社会では信頼が最大の武器になっていく。2人の関係から同性愛的な要素を排除したのは慧眼だ。

オレゴン州の小さな村に流れ着いた料理人のオーティスは、かつて命を助けた中国人移民のキング・ルーと再会、近くの草原に放牧されている仲買人の牝牛から無断で乳を搾る。

2人のドーナツの評判を聞いた仲買人が「ロンドンの味がする」と絶賛するが、牛乳を使っているとは言えない。さらに2人は仲買人からブルーベリーケーキの注文を受ける。会話の端々に、バファローやビーバーが毛皮のためだけに乱獲され個体数を減らしていると仄めかされるが、人間が生きていくのに精いっぱいで環境に対する配慮などまったくなかったことが非常に興味深い。貝殻がまだ通貨代わりに使われているのも驚きだった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

荒くれ者・無法者の狼藉や権力者による搾取などフロンティアを描いた従来の暴力に満ちた映画とは一線を画し、銃やナイフといった武器はほとんど無縁で罰としての打擲も会話の中だけにしかでてこない。その映像は、力よりも理性こそが人間の本質であることを教えてくれる。だからこそ、泥棒に未来はなく運命は2人に厳しい。それでも、逃亡中に別行動になっても双方相手を見捨てず捜すなど、永遠の友情を結んだ彼らの姿はたとえ白骨になっても美しかった。

監督     ケリー・ライカート
出演     ジョン・マガロ/オリオン・リー/トビー・ジョーンズ/ユエン・ブレムナー/スコット・シェパード/ゲイリー・ファーマー/リリー・グラッドストーン
ナンバー     232
オススメ度     ★★★


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ハンガー・ゲーム0

青臭い正義感など判断を鈍らせるだけ。信頼や友情も相手が役に立つ時だけ成立する。サバイバルゲームの中では、信じられるのは自分のみ。物語は、没落貴族の跡取り息子が一族の名誉を復活させるためにのし上がっていく姿を描く。一応、支配階層に属し名門アカデミーに通っている。卒業試験ともいえる課題は隷属地域から選ばれた殺戮バトルのプレーヤーの相棒兼参謀となり、プレーヤーを勝たせること。だが彼とタッグを組むのは歌が特技のひ弱な少女。それでも、少女に礼を尽くし、知恵を絞り、ルールの盲点を衝くことで、彼は少女を勝利に導いていく。だが、純粋さは次第に大人たちの思惑によって少しずつ汚されていく。豊かな金髪を持つ主人公が坊主頭になる。その変貌は過酷な運命を選んだ覚悟がにじみ出ていた。

ハンガーゲームのプレーヤー・ルーシーの教育係となったコリオレーナスは、他の教育係がプレーヤーを見下す中、ルーシーを手なずけるために彼女を駅まで迎えに行く。

上流階級の子弟である教育係の若者たちはプレーヤーたちを文字通り駒としか見ておらず、命令するばかり。一方で、コリオレーナスはルーシーに敬意を示し、自分たちは運命共同体であることを理解させ協力を勝ち取る。弱い立場の者の気持ちに共感を示し、その思考回路を理解する。闇雲に弾圧するのではなく飴と鞭を使い分ける。それは支配階級が身に着けるべき理論であるとコリオレーナスは学んでいくのだ。最初は反抗的だったルーシーが次第にコリオレーナスに恋心を抱いていくが、その過程は、守られていると思わせて搾取するのが格差社会を統治する秘訣であると教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ハンガーゲーム優勝後、ルーシーは出身地区に戻り、治安維持部隊に入隊したコリオレーナスもルーシーの地元に赴任する。折しも反乱の機運が高まり、コリオレーナスは住民を取り締まる立場になる。擾乱は出世のチャンスとばかりに暗躍するコリオレーナスの瞳が光る。そこには権力に魂を売った者だけが持つ妖しさが宿っていた。

監督     フランシス・ローレンス
出演     トム・ブライス/レイチェル・ゼグラー/ピーター・ディンクレイジ/ハンター・シェイファー/ジョシュ・アンドレス/ジェイソン・シュワルツマン/ビオラデイビス
ナンバー     231
オススメ度     ★★★


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https://movies.kadokawa.co.jp/thehungergames0/