こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アクアマン 失われた王国

赤ちゃんの世話に追われ、海底王国を治め、悪党の陰謀にも立ち向かわなければならない。さらには弟との確執、同盟国との軋轢もあり、何事も簡単には物事は進まない。物語は、海底王国の王が古代遺跡に封印された邪悪な魂を呼び起こそうとする人間の陰謀を阻止するために奮闘する姿を描く。地上の人間とは別の進化を遂げ、お互いに干渉しないようにしてきた。だが、強烈な恨みを持つ者は復讐のためにはその掟すら簡単に破る。人間の側にも自らの野望を実現するために禁断の果実に手を出す者もいる。地球温暖化の原因をひとりの男に帰納させているのは、あらゆる個人が温暖化ガス排出に責任を負うべきだという問題提議。海中で圧倒的な破壊力を持つソニック砲を海棲哺乳類たちが無力化するシーンは、彼らの知能の高さをうかがわせる。

海底文明の超燃料を盗んだケインの居場所を知るために、アーサーは砂漠に監禁されている弟・オームを救出する。2人は精錬施設がある火山島に赴くが、そこでは動植物が巨大化していた。

ケインは独自の研究施設と軍団を持ち、今や海底王国を敵に回しても十分に戦える勢力を有している。アーサーとオームは海中を自由に泳ぎ回りスパイのように振舞いながら情報収集と破壊工作を繰り返していく。そこには威厳などなく、己の力で難局を乗り切ろうとする強い意志があるのみ。王としての退屈な義務や子育てなどしたくない、本当は冒険の旅を続けたいんだというアーサーの気持ちが、“Born to be wild” の歌詞に象徴されていた。ケインが頭にかぶる土偶型ヘルメットがクールだった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

アクアマンに変身したアーサーは三叉の矛を手にケインとの最終決戦に臨む。ケインの手には呪いの力が宿る魔の矛。海底の人々にも権力闘争や黒歴史があり、決して穏やかな暮らしをのうのうと享受していたわけではない。統治が確立され争いがなくなっても、またすぐに不満分子が現れて衝突する。平和を守るためには戦争が必要であるという逆説は、決して矛盾ではないとこの作品は訴える。

監督     ジェームズ・ワン
出演     ジェイソン・モモア/パトリック・ウィルソン/アンバー・ハード/ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世/ニコール・キッドマン/ドルフ・ラングレン/ランドール・パーク
ナンバー     8
オススメ度     ★★★


↓公式サイト↓
https://wwws.warnerbros.co.jp/aquaman/

ブルーバック あの海を見ていた

はじめて潜った深い海、自分より大きな魚が近づいてきた。岩礁の主のとして振舞うその魚は知性と感情を備えているように見えた。やがて少女は、魚と魚が棲む環境はかけがえがないと学んだ。物語は、オーストラリア沿岸の小さな漁村で、開発に反対する母娘の闘いを描く。小型ボートで慎ましく漁をしていた。決して乱獲はせず、個体数が減らないように気を付けてきた。それなのに開発業者は重機で海岸を均し地引網で水産資源を根こそぎにしていく。そして明らかになっていく母娘の確執。守るべき海は、生まれ育った地元なのか、それとも世界中に広がっているのか。観光宣伝用映像のように水が透き通っているわけではないし楽園の美しさもないけれど、彼女たちは固有種と生息域を保護しようとする。その熱意は自然と共存する意味を教えてくれる。

サンゴ礁の実態を調査中のアビーは、母が脳卒中で倒れたと知らされ病院に駆けつける。意識も病状も回復し退院するが、母はアビーの問いかけに一切答えない。

アビーは母に話しかけるうちに、2人で過ごした過去に思いをはせる。父を亡くしてずっと2人きりだった。泳ぎと素潜りをアビーに叩きこんだ母は、この海で暮らすために必要なスキルも伝授する。なによりも大切にしているのは生態系。だが、アビーが思春期になると、故郷の海にこだわる母と世界の海に関心を持ち始めたアビーの間に齟齬が生まれる。娘を理想的に育てたい母と己の夢を追いたいアビー。アビーはいまや母の開発反対活動の過激さを恥じている。アビーの親離れに不機嫌になる母の孤独がリアルに再現されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

アビーは村を出て進学する。海洋学者になったことで、ティーンエイジャーのころの夢はかなった。だが今は次の目標が定まらない。アビーはおそらく村を出て以来帰っていないのだろう。それでも母の深い思いを知るうちに、自分のすべきことが見えてくる。解決すべき問題は目の前にあり、その積み重ねこそが人生であると、クジラの群れを見守るアビーの瞳が訴えていた。

監督     ロバート・コノリー
出演     ミア・ワシコウスカ/ラダ・ミッチェル/イルサ・フォグ/アリエル・ドノヒュー/リズ・アレクサンダー/エリック・バナ
ナンバー     7
オススメ度     ★★★


↓公式サイト↓
https://blueback.espace-sarou.com/

BLOODY ESCAPE 地獄の逃走劇

吸血鬼に追われている。ヤクザからも命を狙われている。信頼できるのは街の片隅でひっそりと暮らしている兄妹だけ。物語は、秩序が崩壊した近未来、小さなエリアが独立国のようにふるまう世界で、どのコミュニティにも属さない改造人間が安住の土地を求めて彷徨する姿を描く。コミュニティごとに独自の進化を遂げた生存者たちはそれぞれの肉体に改造を施して環境の変化に適応し、ユニークな価値観を持っている。掟を守っている限りはそれなりの生活は保障されるが、個人の意志よりは全体の利益が優先され、自由を知る者には生きづらい。そんな状況の中で、人間と吸血鬼とサイボーグの特性を備えた主人公は身の振り方を模索する。圧倒的なスピード感とディテールまで描きこまれた映像は、目くるめく気分を体感させてくれる。

不滅騎士団の追撃をかわして新宿クラスタに潜り込んだキサラギは、旧知のクルス、ルナルゥ兄妹に匿われる。キサラギは新宿を支配するヤクザ組織からも指名手配を受けていた。

クラスタは半径1キロ程度の広さで東京各所に点在し、それぞれが自治を保っている。城壁の外は荒野、クラスタ間の移動は原則禁止されている。各クラスタの住民が文化文明を持ち互いに干渉せず発展している。とはいえクラスタ間は歩行可能な距離、必然的にキサラギのようなはみ出し者・流れ者が現れる。新宿のように欲望ギラギラの町では弱肉強食、不滅騎士団は転法輪というリーダーのもと全体主義的な運営が行われている。各々世界観が違い、必ずしも民主主義が優越的ではないあたり、現代の混迷する世界情勢が象徴的に反映されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

キサラギ、ルナルゥ、不滅騎士団を退団したジャミは、逃がし屋たちの手を借りてユートピアと呼ばれる横浜を目指す。鉄道車両を奪い在来線のレールの上をひた走るが転法輪たちが追いかけてくる。そして繰り広げられる死闘。己の信じる正義など、別の立場の者から見ると悪。理由などなんでもいい、人間は争う生き物であるとこの作品は訴える。

監督     谷口悟朗
出演     小野友樹/上田麗奈/斉藤壮馬/内田雄馬/山寺宏一
ナンバー     6
オススメ度     ★★★


↓公式サイト↓
https://bloody-escape.com/

笑いのカイブツ

5秒に1本ネタを考える。自分の理論を他人に押し付ける。コミュニケーション能力はゼロというよりマイナス、気に入らない他人の言動にはいきなりキレる。物語は、お笑い構成作家を目指す若者の蹉跌だらけの青春を描く。大喜利番組への投稿でレジェンドになった。念願のお笑い事務所に潜り込んだのに、先輩になじめない。「おもろいだけが正しい」という信念のもとネタを絞り出し続けるが、誰もが彼から遠ざかっていく。確かにお笑いのために極限まで自分を追い込んでいる。それを正当化する一方で、「人間関係不得意」と面倒なことからは逃げてばかり。そして、応援してくれる人にまで後足で砂をかける。共感ポイントはゼロ、本当の天才にしか許されない生き方を選んだ主人公の狂気に似た情熱はどこまでも空回り。こんなやつはたまにいるな。

お笑い事務所でピン芸人に声をかけられたツチヤは彼のためにネタを書くが、古い資料から盗作したのがバレるとまた自宅に引きこもってはがき職人を目指す。

自室ではアイデアが浮かぶまで壁に穴が開くほど頭をぶつけ、フードコートではポテトフライだけで何時間もノートにメモを書き続ける。恐るべき集中力と持続力はまさしくお笑いに人生のすべてを捧げていると言っても過言ではない。ただ、ツチヤの場合、他人を笑わせるというよりも自己完結で終わっているのが哀しい。TVやラジオのMCにはウケるが、その先にいる大勢のファンには届いていないのだ。自分の作品にカネを払ってくれる人がいて初めてプロ、そのためにはさまざまな人々が関与しているという社会の最低限の仕組みすら理解していないツチヤは、むしろすべてのつまらない人間の業と罪をかぶっているかのようだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

東京で人気漫才師・西寺に気に入られ、ラジオ局に出入りするようになったツチヤは、そこでも何も学ばず西寺の顔に泥を塗る。友達扱いしてくれていたピンクにも泥酔して悪態をつく。アホは通天閣から突き落とさな直らんと思わせる、岡山天音の突き抜けた演技が光っていた。

監督     滝本憲吾
出演     岡山天音/片岡礼子/松本穂香/前原滉/板橋駿谷/前田旺志郎/菅田将暉/仲野太賀
ナンバー     5
オススメ度     ★★*


↓公式サイト↓
https://sundae-films.com/warai-kaibutsu/#

エクスペンダブルズ ニューブラッド

万全の準備で臨んだのに、待ち伏せされていた。親愛なるボスが戦死した。情報が洩れている。裏切り者がいる。疑心暗鬼の中で新たな任務に就いた傭兵たちは、それでも最後まであきらめない。物語は、武装グループに奪われた核起爆装置を奪還しようとする傭兵軍団の活躍を描く。輸送機から派手にランディングする戦闘車、飛び交う銃弾と砲弾、スピーディなカーチェイス、狭い船内を走り回るバイク、そしてナイフと素手の格闘。あらゆる武器・小道具と身体を駆使したアクションは息つく間もなく次々に展開し、俳優たちはスクリーン狭しと暴れまわる。ただそれらのシーンはスリルやスピード感が乏しく、ただ火薬を浪費しているだけ。もう少し緊張感や臨場感を持たせてほしかった。まだジェイソン・ステイサムにはスタローンの後釜はハードルが高い。

リビアでの作戦に失敗してリーダーのバーニーを失った傭兵部隊。ジーナを中心に再結成され、今度は東アジアに展開中の輸送船を襲撃するが、あっさり全員捕虜にされる。

任務から外されたクリスマスはバーニーの敵を討つためひとりで輸送船に乗り込みジーナたちを解放しようとする。迷路のような甲板と船内、圧倒的な戦闘能力で敵の見張りを始末していくクリスマス。そこで繰り広げられる銃撃戦も雑であっと目を見張るようなアイデアはない。こんな荒っぽい仕事に若い女が2人も参加して武装兵をなぎ倒していくが、いかにもジェンダー配慮な感じがするだけで、男くささをぶち壊す。せっかくトニー・ジャーとイコ・ウワイスという超人的身体能力を持つ格闘技の達人をキャスティングしているのなら、2人の決闘を見たかった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

数えきれないほどの命が消耗されたあと、欲に目がくらんだ裏切り者が正体を現し傭兵部隊を貨物船ごと爆破しようとする。すると、驚きのどんでん返しが待っている。そしてとってつけたようなオチ。バーニーは酒場のチンピラを嫌っていたのだろうが、殺されるほどの悪党でもあるまい。このチンピラに同情してしまった。

監督     スコット・ウォー
出演     ジェイソン・ステイサム/シルベスター・スタローン/50セント/ミーガン・フォックス/ドルフ・ラングレン/トニー・ジャー/イコ・ウワイス/ ランディ・クートゥア/ジェイコブ・スキピオ/レビ・トラン/アンディ・ガルシア
ナンバー     4
オススメ度     ★★


↓公式サイト↓
https://expendables-movie.jp/

コンクリート・ユートピア

世界は崩壊してしまった。生き残った人々は、自分たちを守るためにコミュニティを作り部外者を徹底的に排除する。物語は、天変地異であらゆる建築物が倒壊した中、奇跡的に1棟だけ無事だった高層アパートに住む住民たちの、エゴを丸出しのサバイバルを描く。避難してきた非居住者を締め出した。新しいリーダーの元、全員参加の民主主義的な話し合いがもたれた。限りある食料・物資は貢献度に応じた分配。住民たちはアパートの周りをバリケードで固め、男たちは調達隊を組織し付近の商店を荒らしまわる。いつしか顔を知らない者は敵という認識が共有され、先鋭化したリーダーに住民たちは熱狂し始める。難民・格差・貧困・そして不寛容。あらゆる不平等が凝縮されたこの小さな集団は混迷する21世紀を象徴していた。

地震で外部との連絡は一切断たれ孤立したアパートの住人たちはヨンタクを代表に選出し、部外者を極寒の中に追い出す。住民のミンソンはヨンタクに心酔するが妻のミンファは違和感を覚える。

助け合いの精神があるのは最初のうちだけ。日が経ち、救援はこないとわかり、自力で生きなければならないと理解した住民たちが棒切れなどを手に “敵と味方” の線引きをする。頼りなかったヨンタクが徐々に権力に目覚めてリーダーシップを発揮しだすと躊躇していた住民たちも部外者に対して冷酷になっていく。そして、密かに部外者を匿っていた住民に裏切り者の烙印を押す。もはや何が正義なのかは定義できない。勝者もしくは多数派が正義という歪んだ競争社会の原理が機能した結果を住民たちは示していく。外部の生存者が「あのアパートの住民は人を食う」と噂して接触を避けるあたり、協調性のない者は取り残されると訴える。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ひとりの少女の出現でコミュニティに不穏な空気が流れ始める。外部でも反アパート集団が組織され反撃の機をうかがっている。弱肉強食ではない、非常時でも良心や善意といった人間の理性や感情を失わない者だけが終末を生き延びるとこの作品は教えてくれる。

監督     オム・テファ
出演     イ・ビョンホン/パク・ソジュン/パク・ボヨン/キム・ソニョン/パク・ジフ/キム・ドユン
ナンバー     2
オススメ度     ★★★★


↓公式サイト↓
https://klockworx-asia.com/CU/

サンクスギビング

早い者勝ちの無料配布を狙った群衆がスーパーマーケットに押し寄せている。開店を待たずドアは破られ、警備員は踏み潰され、乱入した群衆は完全に頭に血が上ったまま欲望をあらわにする。物語は、連続猟奇殺人事件の犯人に追われる女子高生の奮闘を追う。お面を被った男がどこからともなく現れ、スーパーでの大惨事を引き起こした人々を血祭りにあげていく。あるものは胴体から真二つにされ、ある者は頭部を切断される。その手口は周到かつ無駄がない。相手の生活パターンを調べた上で犯行に及んでいる。ターゲットになっていると知ったヒロインは保安官と共に対策を練るが裏をかかれる。犯人は町の事情を熟知した人間に違いない。だれが、なぜこんなことをするのか。限界を越えた怒りと恨みは人を狂気に走らせるとこの作品は訴える。

感謝祭セールの暴動から1年、お面を被った男が暴動現場にいた女を惨殺、さらに警備員も血祭りにあげる。事件を知ったジェシカはスーパー経営者の父が隠し持つ防犯ビデオの映像を見る。

父を愛しているが継母とはうまくいっていないジェシカは、根は真面目で正義感も強い。殺人犯に狙われている不安と事件後姿を消していた元カレのボビーが町に戻ったことで、心のざわつきを抑えきれない。そして、学校にひとりでいるときに彼女もお面男に襲われる。危機一髪かわすが、職業訓練校ではなく普通の高校なのに、校内にプロ仕様のヘアサロンがあるのには驚いた。もう誰を信じていいのかわからない、どこに犯人が潜んでいるかも予想がつかない。その、神出鬼没を恐れるジェシカの不安がリアルに再現されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

そしてパレードの最中に、父・継母と共に拉致されたジェシカたちに凄惨な制裁が待ち受ける。犯した罪の重さに応じた罰を与える。狂気の殺人者に見えたお面男は、実は冷静に計算している。快楽や本能で殺すのではない、きちんとつけを払わせただけ。知能指数の高い連続猟奇殺人者の行動理論はむしろ教訓だった。ジェシカが単なる尻軽女でがっかり。

監督     イーライ・ロス
出演     パトリック・デンプシー/アディソン・レイ/マイロ・マンハイム/ジェイレン・トーマス・ブルックス/ネル・ベルラーク/リック・ホフマン/ ジーナ・ガーション
ナンバー     2
オススメ度     ★★★


↓公式サイト↓
https://www.thanksgiving-movie.jp/