PVC-1 余命85分
ポイント ★★*
DATE 09/3/5
THEATER EB
監督 スピロス・スタソロプロス
ナンバー 53
出演 メリダ・ウルキーア/ダニエル・パエス/アルベルト・ソルノサ/ウーゴ・ペレイラ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
突然降りかかってくる暴力に、人はなんと無防備で無力なのか。まるで命を弄ぶ死神のような純粋な悪意に囚われ、理不尽に踏みにじられてしまう日常と眼前にちらつく死の恐怖。それは原因や理由がほとんど分らないまま死刑宣告され、執行を待つ身になってしまったようなものだ。物語は爆弾を体に仕掛けられた女と彼女の家族、そして助けようとする警官の葛藤をリアリティあふれる緊迫感で描き、その臨場感はまさに現場に立ち会っているよう。観客は彼女を見守る野次馬と同じ視線でこの惨劇を目撃することになる。
山奥で家畜を育てているシモン一家に強盗が押し入りカネを要求する。断られると強盗団はシモンの妻・オフェリアの首にチューブ状の爆弾を巻きつけて逃走する。シモンは警察に連絡、爆発物処理班のハモンが爆弾の解体に当たるが、ほとんど装備のないハモンは折りたたみナイフでチューブを切り始める。
シモンとオフェリアが山道を進む途中、時折甲高い金属音が爆弾から鳴り響く。それは爆弾が本物であり、行動を見張っているという強盗団からの警告なのか、ただの逃走予防のための仕掛けなのか分らないが、確実にオフェリアの神経をすり減らしていく。やっと駆けつけたハモンも「爆発物処理班」といいながら知識はなく工具も用意せず、ただ義務感だけで事に当たっているような稚拙さ。絶望的な空気が場を支配し、それでも何とか正気を保とうとするオフェリアの努力が痛ましい。
強盗団がトラックの中でののしりあいをする冒頭のシーンから、少女が涙を流すラストまでワンカットで撮りきる。一切の編集はなく、一台のカメラが登場人物と85分の上映時間を共有する。一度NGを出すと最初からやり直し、おそらく入念なリハーサルで俳優の演技からカメラの位置まで決められていたのだろう。失敗は許されないというテンションが映像から漲っている。結局爆弾は爆発、死体が四散する救いのないエンディング。映画は最後まで気の休まる間を与えてくれず、その後味の悪さの中で、誰にも逃れられない運命が「死」の本質であると訴えているようだった。