こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

愛にイナズマ

ビルの屋上フェンスを乗り越えた自殺志願者に早く飛び降りろとはやし立てる野次馬。自分の目で見た事実なのに、そんな非常識な人はいないと否定される。撮影したはずのデータは消え、信じてもらえない。結局もっと人間を観察しろと言われ、へらへらと笑顔でごまかしてしまう。物語は、映画監督志望の女が直面する現実を描く。フィクションだからこそ細部にリアリティが求められる。あらゆる設定に説得力のある「意味と理由」がなければスタッフは動かず客は納得しない。大切にしてきた価値観や表現したいことにケチをつけられても、初めて予算が付いた作品のためには言いたいことをひたすら我慢するしかない。そんな、夢を追うフリーランスという立場を選んだ表現者の日常がリアルに再現されていた。ベテラン助監督の嫉妬と羨望の入り交じった説教が、実にいやらしく人間臭かった。

子供のころ家を出たまま消息不明の母をテーマにした脚本を自ら監督することになった花子。だが、ことあるごとにプロデューサーや助監督と衝突し、降板させられてしまう。

限られた予算で効率よく撮影するにはどうすべきか。実績のない花子はやりたいようにはやらせてもらえずストレスはたまるばかり。なぜか病気にされ企画を横取りされてしまう。それでも偶然知り合った正夫の激励と資金援助を受け、自力で映画を完成させる決心をする。長年音信不通だった父と2人の兄に連絡を取り、母の不在の原因を探るフィクションともノンフィクションともいえない映像をカメラに収め続ける。その過程で明らかになる、家族それぞれが抱える苦悩と葛藤と秘密と嘘。遠慮なくモノが言える相手には容赦なく怒鳴り散らす花子の、作品のクオリティにこだわる態度の “豹変” がコミカルだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

カメラを回すうちに、聞かされていなかった母の真実のみならず父と兄たちの意外な素顔も知ることになる花子。己の心にたまった厚い澱も熱い思いもすべて吐き出して家族を再生させていく姿は、やっぱり血縁こそが一番信頼できると教えてくれる。

監督     石井裕也
出演     松岡茉優/窪田正孝/池松壮亮/若葉竜也/仲野太賀/趣里/高良健吾/MEGUMI/三浦貴大/北村有起哉/中野英雄/益岡徹/佐藤浩市
ナンバー     195
オススメ度     ★★★


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