こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ジャズ喫茶ベイシー

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生演奏ではなくレコードを客に聞かせる。そのためにはスピーカー、アンプ、ターンテーブル、針に徹底的にこだわり、客席での私語は厳禁。ライブとはまた違った魅力を音楽から引き出している。カメラは東北の小都市に店を構えるジャズ喫茶のオーナーに密着、ジャズに魂を奪われた人々がその魅力を語る姿を追う。日米の一流アーティストがステージに立ったこともあるが、それ以外はごく普通。イベントを除けば普段はジャズのレコードをかけるだけの店。それでも常連客達はジャズのすばらしさを熱く語り、我こそはジャズ文化の担い手との自負をあらわにする。ジャズが好きでたまらない、そしてそんな自分が好きでたまらない人々。ルールから解放された音楽を愛することで自由になったはずなのに、だからこそ自分たちに “粋” であれという縛りをかける老人たちの生き方がほほえましい。

一関市に店を構えるベイシーは今日も夜になると客足が途絶えない。オーナーの菅原は店に実在のピアニストにちなんだ名をつけているが、来日時に立ち寄ってくれた本人から許可をもらっているという。

クラシックとは正反対、サックスの即興演奏は感情を逆なでする際どさがある。映画のサスペンスシーンのBGMならばより一層ジャンルの特性を生かせたはずだが、彼らはそれを否定する。一方で耳になじむメロディを演奏するときもあり、その世界観に引きずり込まれるほど心地よさに酔いしることもできる。楽譜も定型もない、心の赴くままに奏でられた旋律の数々は、聞く側がそれぞれに意味を見出さなければならないのだろう。想像の余地を残す、そしてそこから何を感じるようが構わない。答えはない問いかけこそがジャズの神髄なのだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

カウント・ベージー渡辺貞夫も店でパフォーマンスを披露した。さらに小澤征爾のインタビューや鈴木京香のコメントがさしはさまれる。香り高いバーボンよりも湯気が立つコーヒーが似合う、ジャズと物語に満ちた空間。それがベイジーであるとこの店を愛する人々は訴えていた。

監督  星野哲也
出演  菅原正二/島地勝彦/厚木繁伸/村上“ポンタ”秀一/坂田明
ナンバー  50
オススメ度  ★★★


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