こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

とんかつDJアゲ太郎

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キャベツを刻む乾いた音。肉を叩くくぐもった音。衣をつけて油で揚げるジューシーな音。リズミカルだけれど、じわーッと広がる。そんな、とんかつ定食を作る時に出るノイズは、脳内に心地よいホルモンを分泌させる。DJが紡ぎ出すサウンドも同じ、フロアに集う人々たちにダンスで得られる恍惚感を演出しなければならない。物語は、とんかつ屋の後継ぎ青年がDJを目指して日々奮闘する姿を描く。渋谷で生まれ育ったのに流行には縁がなくクラブにも入った経験がない。幼馴染も代々地元で商売している家の息子たち、ダサイ恰好を何とも思っていない。彼らが巨大な消費文化に毒されず、家業を誇りにしているあたりに好感が持てた。何かを始めたいのなら学ぶより実践、動画を作りネットで配信する現代の若者たちのアグレッシブな生き方がまぶしい。

弁当の配達に行ったアゲ太郎は初めてクラブのフロアに入る。客たちを夢中にさせるDJ・オイリーの存在感に圧倒される一方、思いを寄せる苑子にもいいところを見せようと、DJになると宣言する。

「豚肉もフロアもアゲられる男になる」と、友人に機材を集めさせ、しょーもない動画をアップし続けるアゲ太郎。あまりのくだらなさに一定のファンはつくが、まだまだ苑子には認めてもらえない。それでも、アパートを追い出されたオイリーの指導で腕を上げたアゲ太郎はクラブデビューを果たす。このあたりのアゲ太郎の思い込みの激しさと勘違いぶりがコミカルで、繊細な少年の役柄が多かった北村匠海の新境地に触れた気がした。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

失敗してやめると言い、苑子に励まされるとあっさり前言撤回するアゲ太郎。三代目修行とDJの共通点を見出し、キャベツ刻みだけでなく盛り付けから配膳、そして肉を揚げるとんかつ屋の仕事すべてが音楽に通じていると気づく。他人のマネではない、自由な発想で自分の世界観を構築する。とんかつと音楽がシンクロしていく過程は、サクサクのとんかつが食べたい・熱狂的にフロアで踊りたいという気持ちにさせてくれる。

監督  二宮健
出演  北村匠海/山本舞香/伊藤健太郎/加藤諒/浅香航大/栗原類/前原滉/池間夏海/片岡礼子/ブラザートム/伊勢谷友介
ナンバー  189
オススメ度  ★★★


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