話を聞いてくれない夫。見下した態度をとる義父。価値観を押し付けてくる義母。イケメン富豪と結ばれたのに、彼女の胸に湧いてくるのは劣等感ばかり。物語は郊外の豪邸に暮らす専業主婦の孤独を描く。物質的には満たされている。贅沢にも慣れた。だが、夫に養ってもらっているだけの毎日は、求めていた人生とは決定的に違う。そんな時見つけた、己を取り戻すための儀式。最初は苦しかった。痛みや出血も伴った。ところがそれを乗り越えて異物を体内に取り込んでいくうちに、彼女の精神は浄化されていく。異常なのはわかっている。周囲に知られたら止められるに決まっている。それでも夫の目を盗んで異物を呑み込んでいく姿は、狂っているのは彼女ではなく、彼女を取り巻く環境の方ではないかと思わせる説得力があった。
結婚生活に不満を抱くハンターは、ある日家にあったガラス玉を飲み込む。消化されず排泄されたガラス玉に美しさを感じたハンターは、その後もさまざまな小片を口に入れる。
妊娠し幸せの絶頂にあるはずなのに、気分はすぐれない。夫も義父母も祝福してくれるのに、素直には喜べない。ハンターの関心はお腹の子よりも、次は何を飲み込めるか。そして胎児の超音波検査で体内の異物が発見されると、精神医によるカウンセリングを受けさせられる。すべてが手の届かないところで回っている。自分こそが夫たちの住む世界から除外された異物という思いが、彼女の心をさらに乱していく。抑制の効いた寒々とした映像には、上流社会に居場所がないハンターの寂しさが凝縮されていた。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
家政夫の監視下に置かれたハンターは、もはやかごの鳥。そして明らかにされる出生の秘密。彼女をここまで追い詰めたものはなんなのか。セレブ家庭に入るなどという想定外の幸運は、出身階層が違う彼女には不幸でしかない。家庭を守るハンターは21世紀では古臭く思えるが、米国にもまだこういう女がいるのが珍しかった。きちんと教育を受けるか手に職をつけておくべきだと、ハンターの彷徨は教えてくれる。
監督 カーロ・ミラベラ=デイビス
出演 ヘイリー・ベネット/オースティン・ストウェル/エリザベス・マーベル/デビッド・ラッシュ/デニス・オヘア
ナンバー 3
オススメ度 ★★★*