こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

Swallow スワロウ

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話を聞いてくれない夫。見下した態度をとる義父。価値観を押し付けてくる義母。イケメン富豪と結ばれたのに、彼女の胸に湧いてくるのは劣等感ばかり。物語は郊外の豪邸に暮らす専業主婦の孤独を描く。物質的には満たされている。贅沢にも慣れた。だが、夫に養ってもらっているだけの毎日は、求めていた人生とは決定的に違う。そんな時見つけた、己を取り戻すための儀式。最初は苦しかった。痛みや出血も伴った。ところがそれを乗り越えて異物を体内に取り込んでいくうちに、彼女の精神は浄化されていく。異常なのはわかっている。周囲に知られたら止められるに決まっている。それでも夫の目を盗んで異物を呑み込んでいく姿は、狂っているのは彼女ではなく、彼女を取り巻く環境の方ではないかと思わせる説得力があった。

結婚生活に不満を抱くハンターは、ある日家にあったガラス玉を飲み込む。消化されず排泄されたガラス玉に美しさを感じたハンターは、その後もさまざまな小片を口に入れる。

妊娠し幸せの絶頂にあるはずなのに、気分はすぐれない。夫も義父母も祝福してくれるのに、素直には喜べない。ハンターの関心はお腹の子よりも、次は何を飲み込めるか。そして胎児の超音波検査で体内の異物が発見されると、精神医によるカウンセリングを受けさせられる。すべてが手の届かないところで回っている。自分こそが夫たちの住む世界から除外された異物という思いが、彼女の心をさらに乱していく。抑制の効いた寒々とした映像には、上流社会に居場所がないハンターの寂しさが凝縮されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

家政夫の監視下に置かれたハンターは、もはやかごの鳥。そして明らかにされる出生の秘密。彼女をここまで追い詰めたものはなんなのか。セレブ家庭に入るなどという想定外の幸運は、出身階層が違う彼女には不幸でしかない。家庭を守るハンターは21世紀では古臭く思えるが、米国にもまだこういう女がいるのが珍しかった。きちんと教育を受けるか手に職をつけておくべきだと、ハンターの彷徨は教えてくれる。

監督  カーロ・ミラベラ=デイビス
出演  ヘイリー・ベネット/オースティン・ストウェル/エリザベス・マーベル/デビッド・ラッシュ/デニス・オヘア
ナンバー  3
オススメ度  ★★★*


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