こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

空白

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オレは間違っていない。客観的な証拠を提示されても頑固に耳を閉ざし、己が信じている “真実” だけを武器に男は暴走する。根拠なんかない。プライドを保つためには他人を傷つけ続けるしかない。そんな主人公を古田新太が熱演、偏執的なまでの怒りを噴出させていた。物語は、交通事故で娘を失った男の妄執を描く。窃盗を働いた少女が店長に追いかけられた。クルマの陰から道路に飛び出したのは少女だった。運悪く乗用車にはねられた上にダンプに轢かれた。大半の原因は少女にある。だが事故の遠因が自分にあると気付いていた男は、それを認めたくなくて店長を追い詰めていく。人間の業と心の弱さ、興味本位のマスコミと世間、対応策のない学校。誰も悪意はないのに誰もが不快な思いをする。そんな重苦しい空気がリアルに再現されていた。

損傷の激しい花音の遺体を見た充は、彼女は万引きをしていないと決めつけ、スーパーの店長・直人に付きまとう。直人が土下座して謝っても許さず、言葉尻をとらえては非難を繰り返す。

スーパーは客が減る一方、充のふるまいは批判される。ワイドショーもネットも2人が人生から転落していく様子を楽しんでいる。学校でもいじめがあったと言い張る充は担任や教頭の前でも威嚇的な態度をとり続け、生徒に聞き取り調査しろと要求する。もちろんいじめはなかったという結論は受け付けない。追い詰められた教頭は直人の個人情報を提供する。充の矛先が直人に向くように仕向ける教頭は、中学校の無責任体質を象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

自殺に追い込まれたドライバーの葬儀で、故人の母・緑は充と正面から向き合う。絶対に謝らないぞと息巻く充に対し、娘は弱い人間だったといって充に頭を下げる緑。充に言いたいことは山ほどあったはず。恨みがましいセリフの一つも口にしたかっただろう。ところが緑は一切充を責めず、心とは反対の言葉を充にかける。直人の気持ちを追体験させるうんざりするほど気がめいる映像の中で、緑の行動は大いなる救いをもたらしてくれた。

監督     吉田恵輔
出演     古田新太/松坂桃李/田畑智子/藤原季節/趣里/伊東蒼/片岡礼子/寺島しのぶ
ナンバー     191
オススメ度     ★★★★


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