こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

オマージュ

苦労して完成させ、一般公開にまでこぎつけたのに客席はガラガラ。もう次はない。家族の理解も得られない。夢をあきらめる潮時なのか。そんな時舞い込んだギャラの低い仕事。物語は、映画監督としても母・妻としても行き詰った女が60年以上前に撮影された映画の修復に携わるうちに新たな希望を見出していく姿を描く。モノクロの映像は途中から音声が欠けている。なんとか手に入れた脚本と突き合わせると検閲でカットされたとしか思えない部分がある。なによりその映画の監督が女性だったことが気になる。まだまだ男性社会だった映画界、彼女はどんな思いで作品の構想を練り脚本を書き撮影に臨んだのか。当時を知る老婆が語ったジェンダー差別の実態は、旧弊な思想が才能ある女性をどれだけつぶしてきたかを象徴していた。コーヒーに生卵はおいしいのだろうか?

「女判事」という映画の手掛かりを探すジワンは、当時の映画関係者のたまり場だった喫茶店で編集担当だった女の連絡先を手に入れる。彼女に教えられた映画館は廃業寸前だった。

ベン・ハー」の手書き看板が残っている映画館は屋根に穴が開き客席の清掃もほとんどされていない。それでも客を入れてわけのわからないフィルムを上映している。館主は、整理もされず床に積み上げられたままのフィルム缶の中から目当ての映像を自分で探せとジワンに言う。今どきこんな映画館はない、ジワンが足を踏み入れた「映画」という迷宮のメタファーなのだろう。そこには、まだデジタル化されていない物理的存在としての映画がフィルムとして残っている。モニターではなく直接光にさらして内容を一コマずつ確認していくシーンが、テクノロジーの発達で淘汰されてしまったあらゆる技術への鎮魂歌に思えた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

夫とは家庭内別居状態でひとり息子はパラサイト宣言するなど、私生活も不調なジワン。子宮筋腫が見つかったことで彼らのやさしさに触れたりもする。女で得するのは若く美しい時だけ。中年を過ぎた女の生きづらさがリアルに再現されていた。

監督     シン・スウォン
出演     イ・ジョンウン/クォン・ヘヒョ/タン・ジュンサン/イ・ジュシル/キム・ホジョン
ナンバー     47
オススメ度     ★★★


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