こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ザ・ホエール 

何かにつかまらないと立ち上がれない。室内を移動するにも補助具が必要。心拍数が上がると喘鳴が出る。ソファに座ったままで一日のほとんどの時間を過ごす巨大な肉塊は、自らを罰するかのようにひたすら高カロリーのジャンクフードを食べ続ける。物語は、死期を悟った超肥満男が、かつて見捨てた娘に赦しを請う姿を描く。介護してくれる看護師とは信頼関係を築いた。訪問してきた宣教師とも仲良くなった。だが娘はなかなか心を開いてくれない。少しずつ明らかになっていく過去が、現在の状況は彼自身の選択の結果であると示す。娘はそんな父に激しい嫌悪感を抱きながらもやっぱり絶縁はできない。恨んでいる。憎んでいる。それでも幼いころに愛された記憶は鮮明。多感な少女を演じたセイディー・シンクが複雑な感情を繊細に再現していた。

大学のオンライン講師・チャーリーは心臓病であと数日の命。医師にはかからず在宅死の覚悟を固めると、生き別れた娘・エリーが訪ねてくる。チャーリーは彼女と会話の糸口をつかもうとする。

チャーリーは同性愛者と恋に落ち妻子を捨てていた。何としてもエリーとの仲だけは修復させたいチャーリーは、「白鯨」についてのエッセイ指導と多額の貯金を餌に彼女を引き留めようとする。ところがエリーの書いたエッセイは教師のウケは悪いけれど、「白鯨」の小説としての本質を衝いた鋭い指摘と深い考察に満ちている。8年の断絶と空白を埋め、エリーについて知る術は今やエッセイしかない。エリーの多感さと聡明さを見て取ったチャーリーはそれを読み込む。醜い体で精いっぱいの贖罪、チャーリーは元から救済されようなどとは思ってないのだろう。弱さと強さが混在したチャーリーの矛盾した気持ちが哀しかった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

エリーは隠し撮りしたチャーリーの写真をSNSにアップしている。さらに宣教師の懺悔まで公開する。母親に邪悪と呼ばれるエリー、だが彼女の行為は思わぬ救いになる。魂を浄化するためには、真実は隠すよりさらすべきだとこの作品は教えてくれる。

監督     ダーレン・アロノフスキー
出演     ブレンダン・フレイザー/セイディー・シンク/ホン・チャウ/サマンサ・モートン/タイ・シンプキンス
ナンバー     65
オススメ度     ★★★


↓公式サイト↓
https://whale-movie.jp/