こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ソフト/クワイエット

表面に鍵十字の切込みが入ったパイを嬉々として取り分ける。優遇されるマイノリティに対する不満を爆発させ、自分たちの優位性を確認し、それを守るためには何をすべきかを討議する。そして散会時にはナチス式敬礼。物語は、「多様性」や「受容」の流行に不快感を示し、本来の意味でのリベラリズムを守ろうとする米国女たちの暴走を追う。白人の祖先がチャレンジ精神と勤勉の上で建国して繁栄をもたらしたのに、有色人種はその上澄みを掠め取る。メキシコ人や黒人が白人の悪口を言っても咎められないのに、その逆は差別と糾弾される。女性解放よりも女性らしさを追求すべきとフェミニズムを嫌悪する。普段マスコミで描かれる進歩的な米国ではなく保守的なマジョリティ、彼女たちの本音は過激だが正論のようにも聞こえる。多様社会だからこそマナーを重んじ他者に対する敬意を失ってはいけないのだ。

教会の集会所に集まったエミリーをリーダーにする6人の白人女たち。自分たちこそ不当に扱われていると鬱憤を吐き出した後、食料品店に繰り出し、たまたま買い物に来たアジア系のアン姉妹に因縁をつける。

冒頭、ヒスパニック系の清掃員がガラガラとバケツを引きずりエミリーは眉をひそめる。食料品店を経営するキムも有色人種が店で騒ぎ立てることに憤っている。騒音に無頓着なのはいつもマイノリティで、彼らは白人が築き上げた秩序を壊すために挑発を繰り返していると結論付ける。エミリーたちが抱いているのは、今世紀中には白人の方が少数派になってしまい、伝統的な米国の価値観が失われるという圧倒的な危機感。もう時代は後戻りできないのに、過去にしがみつく彼女たちの嘆きが哀しい。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

エミリーたちはアン姉妹に嫌がらせをしようと、姉妹が住む高台の一軒家に忍び込む。しかし、姉妹が帰宅したことから、エミリーたちは理性を失う。ここではエミリーたちの愚かさばかりが強調されるが、アンたちは例外としても、マイノリティの方にも謙虚さと礼儀正しさが求められてもいいはずだ。

監督     ベス・デ・アラウージョ
出演     ステファニー・エステス/オリビアルッカルディ/ダナ・ミリキャン/メリッサ・パウロ/エレノア・ピエンタ/シシー・リー/ジョン・ビーバーズ
ナンバー     93
オススメ度     ★★★


↓公式サイト↓
https://soft-quiet.com/