こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

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人をはねてしまった。目撃者はいない。死体を隠せばなんとかもみ消せる。物語は、裏金疑惑で監査対象となった刑事の怒りと焦燥を追う。母の葬儀を執り行わなければならない。別居中の妻からは急き立てられる。娘とも会いたい。だが、いま最優先させるべきはトランクに隠した死体の処分。大雨の中をクルマで走り回り煤だらけの排気ダクトを這い進む。事故車は偽装した。あとは時間が解決してくれる、はずだった。そこに現れた謎の脅迫者。見られていた。知られていた。まだ交渉の余地はある。刑事は逆転のチャンスをうかがいながらひたすら走り回る。追い詰められた男たちの熱気と汗がにじんでくるような泥臭い映像は登場人物のエゴをくっきりと浮き彫りにし、人間関係という軛から抜け出せない彼らの苦悩と葛藤をリアルに再現していた。

ひき殺した死体を処分しようと思案する工藤のもとに、死体をよこせというメールが届く。相手は、娘を人質に取っていた。

運転中もひっきりなしにスマホの着信音が鳴る。大雨の中、視界が悪い。自分の脇の甘さが引き起こした窮地であるのも自覚している。一方で責任をなすりつける上司とも対峙しなければならない。母の死に目に会えなかった後悔も強い。ところが、工藤の頭には保身策ばかりが浮かび、母の棺桶すら利用しようとする。もう後戻りできない。ばれたら人生は終わる。その場しのぎの挙動を重ねるうちに生じた矛盾もとっさの機転で回避する。地獄が待ち受けているとわかっていてもこのまま突き進むしかない、そんな工藤の一瞬も心が休まることのない緊張感がスクリーンからほとばしる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

キャリア組の監察官・矢崎は工藤への事情聴取を擬して死体のありかを探り出そうとする。その後もあの手この手で工藤を脅し追い詰めていくが、工藤はなかなか音を上げない。葬儀と結婚式、対照的なシチュエーションを体験した2人の男が繰り広げるバトルは一歩も引けないチキンレース。彼らの爆走は、悪あがきですら男の美学に昇華されると教えてくれる。

監督     藤井道人
出演     岡田准一/綾野剛/広末涼子/磯村勇斗/駿河太郎/山中崇/駒木根隆介/山田真/清水くるみ/杉本哲太/柄本明
ナンバー     95
オススメ度     ★★★*


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