こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

断捨離パラダイス

挫折した。恋人も去った。いつまでも落ち込んでいるわけにはいかない。新しい生活には、意外とすんなりとなじんだ。さまざまな価値観を持つ人々との交流は楽しかった。物語は、手の震えが止まらなくなったピアニストが廃品回収業者に就職、再スタートを切った彼の日常を追う。初めて見る汚部屋にゴミ屋敷、廃品や不要物を足の踏み場もないほどため込んでわずかな隙間でかろうじて寝食する人々。元々はまともな生活をしていたはずなのに、心の箍が何らかの拍子にはずれ整理整頓ができなくなっている。寂しさだったり罪悪感だったり、その原因はさまざまだが、主人公は問題を解決しようなどとはせずただ話を聞き寄り添うことで依頼人たちを前に進ませようとする。子供のころからの夢をあきらめた一番つらいはずの彼が他人にやさしく接する姿が印象的だった。

プロへの道を絶たれた律稀は断捨離パラダイスという会社に就職、初仕事の現場でゴキブリの大群を見て失神する。その後、元AV女優のシンママ・明日香の部屋の片づけを任される。

小学生の息子は学校で問題を抱え担任は何度も家庭訪問を申し出る。明日香はそのたびにのらりくらりとかわしていたが、ついに逃げ切れなくなり断パラに依頼、律稀たちがやってくる。息子がいるにもかかわらず自堕落な生活を続ける明日香、だが息子は明日香になついていて母子の仲はいい。生活環境以外は良好、でも彼女には自己を制御する精神力は決定的に欠けている。深い絶望を味わった経験のある律稀は、だからこそ彼らの心の弱さが理解できる。頼りなかった律稀が、顧客の陰口を言うわけでもなく真摯に仕事をこなしていくうちに信頼を身に着けていく。その過程は、責任ある仕事は人間を成長させると教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後も、介護士の部屋や老人の一戸建て、女教師のマンションなど依頼があれば何でも断捨離する律稀。彼らが捨てられなかったのはゴミではなく「思い」だったことに気づいていく。過去のしがらみを断ち切ってこそ未来は開けると、きれいになった部屋は訴えていた。

監督     萱野孝幸
出演     篠田諒/北山雅康/武藤十夢/中村祐美子/関岡マーク/泉谷しげる
ナンバー     121
オススメ度     ★★★


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