こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

こんにちは、母さん

丁寧で柔らかい女言葉で話す老婆と女子大生。今や山田洋次の作品でしか体験できない美しい東京言葉での会話は、むしろ新鮮で懐かしい。21世紀にこんな言葉遣いをする庶民はもういないと思うが、アーカイブしておきたいほど上品な日本語だ。物語は、公私ともに不調の男が実家の母の元で人生を見直していく過程を描く。足袋屋を営んでいる。客は芸者か相撲取りだけ、年金がなければ生活できない。それでも仲のいいご近所さんに囲まれて母は元気に暮らしている。家出した娘を捜して実家に戻ったエリート会社員は、娘が母に懐いているのを見て安心する一方で複雑でもある。さらに何事にも動じず決して慌てない母が年甲斐もなく恋をしていると知って混乱する。家族は壊れても血縁の絆は続くと彼らの関係性は訴える。

会社で首切り役をやらされている昭夫は妻子に逃げられマンションで独居中。口実を設けて母・福江に会いに行くと、福江はボランティア先の牧師と相思相愛になっていた。

効率第一主義の昭夫夫婦の元で育った娘の舞は、ありのままの自分を受け入れてくれる福江にすっかり感化され、近所の人との気の置けない距離にもなじんでいる。仕事と会社の利益ばかりに目が行く昭夫と違い、社会的弱者にも目配りをして助け合って生きている人々に共感し、ボランティアを手伝うようにもなる。昭夫が会社にいる間に、母も娘も居場所を見つけ生き生きとした表情をしている。競争vs.共助、男と女の対照的な価値観の違いは、身の丈に合った幸福とは何かを問う。舞が昭夫から小遣いをもらうときに手刀を切る、その控えめな感謝のしるしがチャーミングだった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

牧師からデートに誘われた福江は有頂天になり、その後も自宅まで送ってもらう。そこで知らされた衝撃の事実。失意に沈む福江、沸騰して鳴き出すやかん、たち去る牧師、追わずに見送る福江、豆腐屋のラッパという一連のショットの流れは古き良き日本映画の伝統が凝縮されていた。こんな映像表現はぜひ次世代に受け継がれてほしい。

監督     山田洋次
出演     吉永小百合/大泉洋/永野芽郁/YOU/枝元萌/加藤ローサ/宮藤官九郎/田中泯/寺尾聰
ナンバー     163
オススメ度     ★★★★


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