こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

コカイン・ベア

「エルサ」と「オラフ」がハイキング中にクマに襲われ、茂みから引きちぎられた片足が飛んでくる。人を食った導入部に思わず腹を抱えてしまった。物語は、森林地帯に投げ捨てられたコカインを口にした子育て期の野生クマが次々と人を襲う過程を描く。パッケージごと飲み込みハイになったクマは身体能力を増強させ、人間を恐れずに突進してくる。においに敏感に反応し、驚異的な素早さで木に登り全速力で走る救急車を追いかけてくる。その間あぶりだされるのは、人間たちの本性。愚かさや強欲さ、薄っぺらい生き方をしている者は当然命を落とす。善良な心を持つ者は助かるのかと思いきや、クマはそんな区別はしない。脳漿や手足、内臓などが飛び散っているのにそこはかとないユーモアが混じる映像は “笑えるホラー” というユニークな世界観にいざなってくれる。

写生に行った少年少女と少女の母、捜索するレンジャー、コカインを探すギャングとチンピラ、彼らを追う刑事。それぞれが山の中で凶暴化したクマと出会い、サバイバルを繰り広げる。

少女の母は娘を捜すのに必死で少年の安全にまで考えが及ばない。レンジャーの女は環境保護活動家に色目を使っている。チンピラはギャングにぶちのめされ、ギャングは犯罪組織から足を洗いたがっている。刑事は事件を追うあまり飼い犬を部下に押し付けたりする。登場人物それぞれが葛藤を抱き、狂暴化したクマに対する警戒よりも自分のことで頭がいっぱい。もちろんクマに遭遇したときは必死で解決策を探るが、その場しのぎの短慮でむしろクマの思う壺? に自ら落ちていく。そのあたり、残酷な描写を交えながらも嫌悪感を抱かせない演出は、コーエン兄弟を想起させる切れ味だった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

クマの巣で娘を見つけた母は脱出を図るが、ギャングに見つかってしまう。さらにクマが戻ってくるともはや大混乱。それでもクマは危害を加えようとする人間だけに狙いを定める。このあたりはご都合主義でツッコミどころも頻出するが、それも含めて楽しめる作品だった。

監督     エリザベス・バンクス
出演     ケリー・ラッセル/マーゴ・マーティンデイル/レイ・リオッタ/オールデン・エアエンライク/オシェア・ジャクソン・Jr./クリスチャン・コンベリー/ブルックリン・プリンス
ナンバー     182
オススメ度     ★★★*


↓公式サイト↓
https://cocainebear.jp/