こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

春画先生

衣類の裾をはだけ丸出しになった下半身を絡め合う男女。エロティックそのものという構図だが、むしろ交合部分を隠すことで様々な情景が浮かび上がってくる。物語は、春画研究に人生をかけた研究者と、彼によって春画の奥深い世界にいざなわれた女の純粋だが屈折した愛を描く。権力に禁じられた。卑猥なものとして目を背けられてきた。だが、人間なら誰しもが持っている本能に基づく欲望を抑えつけることなどできない。本当はもっと見たい。興味が次々に湧いてくる。それを表立っては口にはできない。そんなヒロインの気持ちをもみほぐし、春画のすばらしさ、込められたメッセージ、そして洗練された技法を丁寧に解説していく研究者。心の奥底に眠る願望を解放された喜びに満面の笑みを浮かべる彼女は、“性” こそが “生” であると訴える。

バイト先で芳賀に声をかけられた弓子は、春画鑑賞の手ほどきを受けすっかり夢中になる。ある日、芳賀が執筆中の「春画大全」の編集者、辻村が芳賀の家を訪ねてくる。

過去に何度も同じようなことがあったのだろう、辻村は弓子が芳賀に抱いている感情をすべてお見通しで、芳賀が弓子を気に入っていることにも気づいている。死別した妻に操を立てている芳賀の代わりに、辻村は弓子を抱く。しかも行為中の音声を芳賀にライブ配信して、芳賀の思いを満たそうとする。辻村を媒介とした芳賀と弓子のセックスは、性愛の愉悦は肉体のみならず精神的な結びつきに昇華されてこそ至高の体験となることを象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

そして現れた亡妻の双子の姉。人生でたった一人深く愛した女と同じ顔をした女に芳賀は魂をいたぶられ苦悶の表情を浮かべるが、それはまた快感をともなってもいる。弓子も愛欲の火が付いた己の肉体を芳賀と過ごすことで燃焼しつくそうとする。恋愛感情とセックスは表裏一体、男と女が全身全霊をかけてまぐわう、それは決して隠微なことではなくおおらかに楽しむものであると、この作品、いや性行為そのものを描いた春画の名作の数々は教えてくれる。

監督     塩田明彦
出演     内野聖陽/北香那/柄本佑/白川和子/安達祐実
ナンバー     191
オススメ度     ★★★★


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