こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

PERFECT DAYS

薄暗いうちに目覚め布団をたたみ身だしなみを整え缶コーヒーを買って仕事車に乗る。早朝の街、高速道路に乗っていく先々は東京都内の公衆トイレ。物語は、トイレ掃除人の判で押したような日常を追う。一日のルーティンをきちんと守る。無口だが仕事は丁寧。人柄は温厚で人情にも篤い。たまにイラつくこともあるが、感情的にはならない。なるべく他人から意識されないように振舞うが、それでいてなくてはならない空気のような存在でいることを心掛ける主人公の日常は、修行僧のように禁欲的だ。それでも、文学や音楽の趣味は、彼が深い教養と礼儀を身に着けた人物であることを浮き彫りにしていく。抑制の効いた映像は、彼が単純な肉体労働に就いた背景には、過去に深い苦悩と葛藤、そして絶望があったと暗示する。

カーテンもない下町のアパートでひとり暮らしをする平山は、勤務日も休養日も規則正しく過ごすことを心掛けている。ある日、家出してきた姪のニコが平山の部屋に転がり込んでくる。

時代から取り残されたようなボロアパート。対照的に、すぐそばにはスカイツリーがイルミネーションを輝かせている。平山には金欲物欲はなく、最低限の生活を維持する以上のカネを必要とはしていない。彼が自ら選んだ清貧は、「カネがないと恋もできない」という同僚の言葉に象徴されるように、不満とストレスこそが貧困の原因だと訴える。ニコはそんな平山の生き方に新鮮さを覚えて共感したのか、むしろ喜んでトイレ掃除の仕事を手伝ったりしている。古いモノクロフィルムで撮った木漏れ日の紙焼き写真は、日々のディテールこそが豊かな人生を紡ぎ出すことを示す。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて、平山の妹が運転手付きのクルマでニコを迎えに来る。妹は平山がトイレ掃除をしているのを信じられない表情で受け入れる。親族と義絶してまで平山は何を捨てたのか。それは、それまで築き上げたエリート的な地位と人間関係のすべて。でも後悔はない。孤独は決して悲劇ではないと平山の目にたまった涙は教えてくれる。

監督     ビム・ベンダース
出演     役所広司/柄本時生/ヤアオイヤマダ/中野有紗/麻生祐未/石川さゆり/田中泯/三浦友和
ナンバー     230
オススメ度     ★★★*


↓公式サイト↓
https://www.perfectdays-movie.jp/